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黄昏道中祭時
そう、これは一種の幻想かもしれない出来事
お祭りで神社及びその周辺は身動きが取れない程人でごった返していた。
そのお祭りがあるのを知ったのは約1
週間前。SNSで告知が投稿されていたからだ。旧暦のとある日に合わせて県内のあちこちの神社などでお祭りが開催されるらしく、一週間後、そのお祭りがあるのは隣町の神社のようだった。気になったので行ってみようかな~と思った。そして現在に至る。
「次はー○●神社前。○●神社前。バスが停止してから移動してください」
バスに乗って隣町の神社のいくつか手前で降りた。この先はお祭りで交通規制がかかっている。しばらく歩かないといけない。面倒くさいなぁ~と思いつつ歩く。同じ方向へ進んで行く人達が多かった。だからってこんなに多いとは思ってもいなかった。
--- ワイワイ ガヤガヤ ---
--- ザワザワ ギャーギャー ---
人が多い。どこからこんなに人がやって来るのだろう。
屋台で何か買おうとしたけれど先にお祭りのメインである|灯篭《とうろう》を見に行くことにした。灯篭は神社の境内へ続く階段にズラッと並んでいる。さまざまな人が書いたであろう灯篭が夕方になるにつれてろうそくが付けられていく。
「きれいだなぁ~。灯篭なんて小さい時に作ったっきりだっけ」
幻想的に照らし出すのはなんともいえない感じだった。知り合いの作った灯篭もあった。暫く会っていなかったので何をしているんだろうとは思っていたけど灯篭、作ったんだな。
「今度、連絡してみるか」
一通り見に行った後で何か買おうかなと思っていながらも何を買おうかなんて思い付きもしなかった。ふと、周りの人を観察してみる。なんだか狐の面を着けている人が多い気がする。
「流行ってんのかな、狐の面って」
どこを見ても狐。狐。狐。形は微妙に違うけど狐の面ばっかり。異世界にでも来たような感じだ。このお祭りって狐の面って必要だったっけ? と思いながらもお面の屋台があったので他の人達と同じように狐の面を買うことにした。
「おじさん、これ下さい」
「おう、面白いもん選ぶじゃねぇか。1つ1000円だが安くしとくぜ?700円でいいぞ」
「ありがとうございます」
何か知らんけど安くしてもらった。ちょっと嬉しかった。面1つに1000円って高くないか? と思いつつ。
白をベースに目元が朱くなっている一般的な狐の面に少し飾りがついている。仮面舞踏会の時に着けるようなマスクのような感じで目元だけが隠れるような面にした。早速着ける。視界が少し狭まるがあまり気にならない。似合っているかは……分からない。
屋台ではしまきを買って何処か食べられそうな場所で食べる。
「できたてだ! おいしい。箸に巻いてあるからちょっと食べにくいけど」
(流石に買う時と食べる時は面を外した)
おなかがすいていたのでちょうどいいなと思いつつ、何か食べ足りないなぁ~と思った。さっき買った烏龍茶で喉を潤しつつ、ぶらぶらと屋台を見て回ることにする。
たこ焼き、焼きそば、フライドポテト、かき氷。りんご飴にわたあめ、冷やしパイン。
「いろいろあるな~ホントに迷う」
その中で焼きそばとりんご飴を買った。食べるにしても人が多すぎてゆっくり食べることができないので、少し先にある公園で食べる。
この時点で粉ものと麺類、飴だとかカロリーとか気にしてられない。気にしたら負けである。カロリーを消費するために歩けば良いのだ、歩けば。とにかく楽しんだ者勝ちだ。
公園のベンチに座って焼きそばを食べる。ソースの匂いにつられた。仕方ない。美味しそうな匂いだったからつい買っちゃった。すこし味が濃いけどそれがいい。しれっと食べきってゴミをまとめる。
お次はりんご飴。小さなリンゴに甘い飴が薄くかかっている。飴の部分はすぐになくなってしまい、シャリシャリとリンゴをかじる。
「そういえば、小さかったときよく買ってもらってたな、りんご飴」
お祭りといったらりんご飴だと、思ってる。りんご飴も食べきってゴミもまとめてゴミ箱に捨てに行く。
これからどうしようと考えながらふと、「この時間帯って黄昏時って言うんだっけ」
「そうらしいねぇ~君は特に気を付けなよ~」
「気を付けるって何にさ」
「人ならざる者達にだよ。妖怪とかあやかしとかの類いだね」
「君はいろんなものに好かれやすいから」
「そうなんだ、なんか恐ろしいね。気を付けておくよ」
とかなんとか親友と話していたことを思い出した。
黄昏時、午後5時くらいから7時くらいをさし、段々と暗くなっていく時間帯である。そのことから魔物や災いに遭遇しやすいらしい。
「ここって神社の近くだし何か起こったりして。」
なんて事を考えながら狐の面を着けてブラブラと境内の方へ歩いていると、騒がしい人混みの中から遠くで鈴の音が聞こえる……気がする。
--- シャラン シャラン シャラン ---
--- シャラン シャラン シャラン ---
--- シャラン シャラン シャラン ---
回数が増すごとに段々とこちらに近づいているような。
--- シャラン シャラン シャラン ---
--- シャラン シャラン シャラン ---
--- シャラン シャラン シャラン ---
何か大勢の足音が聞こえる。
その時、これでもかという程騒がしかった人混みの動きが止まった。動いているのは自分だけ。後ろを振り向くと誰もいない。元の方向に戻るとこちらも誰もいなくなっていた。自分以外どこかへと消えてしまった。
「どこ行ったんだ?みんな。ぶっちゃけめっちゃ怖いんだけど」
鈴の音と足音。向こうから紅い傘をさした人達が近づいてくる。
--- シャラン シャラン シャラン ---
--- シャラン シャラン シャラン ---
--- シャラン シャラン シャラン ---
紅い傘をさした人達は1列となって神社の方から歩いてきた。よくみるとみんな狐の面を着けており、和服だった。傘だったり提灯、鈴とか人それぞれ手に持っているものが違った。物陰に隠れようとしたけれど足が動かない。ついには怖くなって腰が抜けてしまった。動けない。ただ、地べたに座って行列を見ていることしかできなかった。
このご一行はどこに向かっているのか。
列の真ん中に豪華な着物を着た女性が歩いていた。
(狐の面を着けていたので顔は分からなかったが背丈からしておそらく女性な気がする)
まるで狐の嫁入りとか花魁道中みたいだと思った。
「きれいだ。」
むせ返るような甘い花の匂いが漂い。周りが霧がかってきてだんだんとご一行の姿も見えなくなった。
「……っい! ……おい! 起きろ! 」
「んえ?」
気が付くと目の前に狐の面。霧は晴れている。
「うわぁ~」
「開口一番に『うわぁ~』とは何だ、貴様」
「貴様って酷くないですか!?」
なんなんだよこの人……あの御一行の仲間かな? 和服だし。
「どうでもいいだろ。で、貴様、ここの奴らじゃないだろ」
「そうらしいですね? 気付いたらここに。というか、人が消えたんですよ! 」
「人が消えたんじゃなくて貴様が|此方《こっち》に来たんだよ」
?いまなんと?
「もう一度言ってやろう。《《人が消えたんじゃなくて貴様が此方に来たんだよ》》」
「はぁ?」
一番あり得ないこと言ってきたぞこの人。
さっきまでお祭りの会場にいたんだけどなぁ~。てか『此方に』てことは自分、死んでね?
いつ死んだんだよ。
「言っておくが死んではいない。約束を守れば向こうに帰れる」
「それを早く言ってくださいよ~。まず、腰が抜けて立てないので手伝ってくれません?」
「あいよ」
手を借りてどうにか立ち上がり、狐の面の人についていくことになった。
「帰るんだったら急ぐぞ、時間が経ったら帰れなくなる」
「はい?」
ついていった先には大きな鳥居があった。
「どうして此方に来たのかは知らねぇが、この鳥居の先を真っ直ぐ進めば元の場所に帰れるはずだ。その代わり約束がいくつかあるがな」
その約束というのがこうだ。
・烏の後をついていくこと(帰り道を知っているから)
・何があっても絶対に振り返ってはいけない
・つけている狐の面をはずしてはいけない
・さっき見たことや聞いたことを他の人に言ってはいけない
言ったら最後また向こうに引き込まれてしまうらしい。
「そもそも貴方って何者なんですか? 」
「世の中には知らない方がいいこともあるさ。特に何もないならもう行け!」
半ば追い出されるように背中を押され、目の前に烏がいた。
「カァ~ガァガァ~」
「ついてこいって言ってるのか? 」
目の前の烏は飛ばずにピョコピョコと跳び跳ねている。かわいい。
ピョコピョコ、ピョコピョコ。
いつまでも歩けばいいのだろう。結構長い時間歩いているような気がする。
携帯は圏外。参道をあるいているのだが、何も変わらない景色なのでだんだんと飽きてきてしまった。
--- シャラン シャラン シャラン ---
まただ、鈴の音。後ろから。けど、振り返ってはいけないんだった。
ただ、ひたすら進むだけ。烏の後ろをついて行きながら。
なんだかまた霧が濃くなってきた。まだ歩みを止めずに進む。
「ガァ~カァ~」
烏が一声あげながら飛び去っていった音がした。
道案内はここまでのようだ。そろそろ家に帰りたい。
ふと、やけに騒がしくなったと思った。
濃くなった霧がバッと晴れ、目の前に人混みが現れた。見上げると大きな鳥居。元の場所に帰りついたのか? 見知った道に突っ立っていた。
「何だったんだ?」
疑問は絶えないが無事帰ってこれたことだし家に帰ることにする。いろいろとありすぎて疲れた。
もう日は暮れており、辺りは屋台の明かりや街灯が灯っていた。
「バス乗って帰ろう」
何事も無かったかのように日常は動き出す。
いろいろ設定もりもりになった気がします。気付いたら増えてた。文章も増えてた。
書いてるやつ異世界ものか何か食べてるやつが多いなぁ~と思う今日この頃。
今回もお読みいただきありがとうございました。