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18.クランは、フィルゲと戦う
翌日である金曜日。魔術の授業。
わたくしはここ二日の通りに訓練場に来ていた。
教室にいたわたくしが見たのは……フィルゲだった。
見間違えかもしれないけれど……黒髪は珍しいし、きっとフィルゲよね?
一度疑ったせいで自身が持てなくなってしまったわ。
だけど、きっと大丈夫よね? それに、皆さんわたくしが来たばかりでそういうのに疎いと分かっているでしょう。
そういえば、確かに今までフィルゲを剣術でも魔術でも見たことが無かったわね。
思い返してみると不思議だわ。
「こんにちは、フィルゲ」
今まで来ていなかった理由を聞こうと思って話しかけてみる。
「ん? ああ、クランか。どうしたの?」
「あなたを授業で始めてみたから、理由が気になったの」
「あ、あぁ……ちょっと面倒事を頼まれてね……」
「面倒事?」
「そう、編入生の世話というか手伝いというか……ずっと魔術を教えていたよ……」
「編入生?」
「そう、一年生だよ」
「一年生? それってシンディ?」
「うん、そう。知り合い?」
「ええ、少しだけ一緒に過ごしたことがあるわ、寮は隣だしね」
「そうなんだ。まあ空いている部屋に編入生を入れているからね。そんなもんかな?」
「そうなのね。シンディはどうして?」
「あぁ……。それは本人から聞いたほうが良いと思うな。僕の口から言うことではないと思う」
「そう……」
残念だわ。
そういえば、雪を作っているときに魔術について聞いたときも、その日には教えてくれなかったわね。
複雑な事情でもあるのかしら?
「で、そのシンディは今はどうしているの?」
「知らないよ。今のところ僕が関わる相手ではないからね」
……。
独特な考えを持っているのね。
そして、授業が始まった。
「さ〜て、闘技大会まで今日を含めてあと三日ね〜。昨日までの二日間、みんなには動いている的に当てる訓練をしてもらったの。
そこで、今日は、対人戦としてそれをやろうと思うわ〜。
ルールは簡単、五分間魔法を打ち合ってお互いの魔術にぶつけるだけ。互いの後ろには魔導具の壁を用意し、その壁に一つでも魔術が当たったら負けだ。防御魔法はダメよ? あと、攻撃は実体を持つものでお願いね?
じゃあ……フィルゲとケビン、お手本をお願いね?」
「「分かりました」」
「じゃ〜あ、始め!」
さて、二人の戦いは始まったわ。
どうやらというかやはりというか、フィルゲの方が実力はあるみたいね。さすがSランク。
フィルゲがたくさんの魔法を放ち、それをケビンが打ち落とすというケビンの防衛一本の戦いになってしまっている。
そんな状態でケビンがうまく戦えるはずもなく、試合はとても早く終わってしまった。
「うーん、これじゃあ参考にならないわね〜。どうしましょうね〜」
「先生、それならクランとやりたいです」
「クラン? 戦いになるの?」
「やってみないと分かりません」
「まあいいわ。それじゃあ、位置について〜。始め!」
わたくしとフィルゲの戦いが始まった。
「「氷よ、貫け!」」
わたくしもフィルゲも、大量の氷を打ち出すところから始まった。
ただ、そんなに打ち出していても、もちろんうち漏らしが出てくる。それも、大量の氷で対処する。あちらも同じようなことをやっている。
わたくしたちの試合は、拮抗していた。
だけそ、わたくしは限界を感じていた。
わたくしは、ここでまあまあの魔力を使い、技術は総動員している。だけど、フィルゲにはまだまだ余裕がありそうだ。
「すごいな……」
「あのフィルゲと五分五分だなんて……」
「どちらの技術も負けていないわ……」
「あら〜、意外とやるわね〜」
もし、わたくしが聖女の力を解放すればこの試合には勝てるかもしれない。だけど、そんなことをしてこの試合を潰したくない。
魔術を繰り出しながらも、わたくしは一生懸命考えていた。
……あ!
「水よ、雪になれ」
小さく、呟く。
「何か言った?」
「さあ? 気のせいじゃないかしら?」
もちろん気の所為なわけがないじゃない。
その間も、フィルゲは時々土魔術をぶっ込んできたり、上からの攻撃を目論んできたりと忙しい。
わたくしも、それになんとか氷で対応するので精一杯だ。他の属性に意識を変える余裕がない。
……同じ属性とは言え一つを除いて。
「雪?」
フィルゲがそう呟いたのが聞こえてきた。
「そうみたいね。今日は降りそうになかったのだけど、どうしたのかしら?」
先程発動した魔術が、上空からやってきて、今、この場に降っている。
「さあ?」
そう言うフィルゲの目は、わたくしを注視している。
はやく、雪が壁に当たって!
わたくしが数えているものによると、今は戦いを始めてから四分十三秒が経過している。
何もなければ勝敗はつかず、引き分けになってしまう。
それはなんだか悲しいわ。
そう思ってしまうでしょうから、だから速くこの試合が終わってほしい。
——ブーー!
「え?」
その音は、フィルゲの後ろの壁から聞こえてきた。
わたくしの放っていた氷の魔術が当たった気はしない。
……雪が、何とか当たってくれたみたいね。
きっと、フィルゲはいきなりの雪を不思議に思いながらも、まさかわたくしの攻撃だなんてつゆほどにも思っていなかったんでしょうね。
「解除」
皆にも分かるように、声に出して言う。
すると、今まで降っていた雪が、消えた。
「あぁ……」
どうやらフィルゲは気づいたみたいね。
「そういうことよ、今回はわたくしの勝ちね。だけど、真っ向からの勝負だったらきっと負けていたわ。すごいわね、そんなにも実力があるなんて」
「いや、クランも大したものだよ。本当にネイラは君に負けたんだね」
「え? 姉さんが、負けた? この人に?」
ここで急に割って入ってきた声があった。もちろんケビンだ。
「はいは〜い、それじゃあ他の人たちも試合をするわよ〜、相手を決めて、位置についてね」
「クラン、またやらない?」
「もう少し実力をつけてからにしたいのだけど?」
「いいじゃん、僕とのやつで実力をつければ」
「……次はきっとわたくしは負けるわよ?」
「それでもいいよ」
「なら分かったわ。戦いましょう」
「やった!」
そして、わたくしは授業が終わるまで、ずっとフィルゲと戦っていた。
「あのさ、クラン。僕も人のことは言えないと思うけど、なんで魔力が持っているの?」
「さあ、分からないわ」
この授業は、ケビンが始めて知った事実への驚きと、フィルゲが抱いた疑問を残して、終わった。