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第4話:裏庭の監視者と、非合法な師弟契約
王立学園の裏手に広がる防風林は、昼休みでも人影がまばらな穴場だ。
だが、そこには地上から数メートルの高さ、太い枝の上に「不自然な影」が二つあった。
「……っ、ソーレ。木の上なんて、スカートがめくれたらどうするのよ」
「安心しろって。俺が|身体強化《フィジカルアップ》でガッチリ支えてるし、下からは絶対見えねーよ」
イゾルデは顔を真っ赤にしながら、ソーレの膝の上に横向きに座らされていた。
周囲は生い茂る葉に囲まれ、二人の吐息だけが重なり合う。
準備室とは違う、野外特有の開放感とスリル。イゾルデの心臓は、授業中には決して見せないほど激しく打ち鳴らされていた。
「……ねえ、ソーレ。あの子のことだけど……」
「あ? |金貨三枚《奨学金》握らせたガキか?」
「ええ。……もし、あの子が私たちの秘密を『武器』にしてきたら、どうするつもり?」
イゾルデの問いに、ソーレは彼女の顎をクイッと持ち上げ、不敵に笑った。
「武器にされる前に、こっちの『駒』にしちまえばいいだろ。……だろ、そこに隠れてるライル?」
ソーレが視線を向けたのは、隣の木の茂みだった。
「ひっ……!? な、なんでバレたんですか……っ!」
ガサガサと音を立てて姿を現したのは、昨日二人の現場を目撃した生徒、ライルだった。彼は枝にしがみつきながら、涙目で震えている。
「|身体強化魔法《オレ》を舐めるなよ。心音も呼吸も丸聞こえだ」
ソーレの声が、体育教師のそれから「街の守護者」の低いトーンへと変わる。
イゾルデも瞬時に「氷の令嬢」の表情を取り戻し、冷たい声で追撃した。
「ライル君。……あなた、私たちの『生存確認』をまた覗き見しに来たのかしら? それとも、昨日の金貨じゃ足りなかった?」
「ち、違います! これ、返そうと思って……!」
ライルが差し出したのは、昨日ソーレが握らせた金貨だった。
「僕、実家の店が苦しいのは本当ですけど……先生たちの弱みを握ってお金をもらうなんて、そんなの、カッコ悪いじゃないですか!」
予想外の言葉に、二人は顔を見合わせた。
ソーレが鼻で笑い、ひょいとライルのいる枝まで飛び移る。
「……ほう。じゃあ、交換条件といこうか。その金はやる。その代わり、お前は今日から俺たちの『隠密』になれ」
「隠密……?」
「ああ。俺たちの慈善活動……裏の支援や、街の汚職調査の手伝いをしてもらう。……もちろん、学園内での俺たちの『イチャつき』の監視と、他の生徒が来ないか見張る役もセットだ」
それは、口封じを越えた、あまりにも「非合法」で「個人的」な師弟契約だった。
「……ソーレが、そうれ……『いい案』を出したわね」
イゾルデが、少しだけ口角を上げて、ダジャレ混じりに同意した。
「ライル君。あなたは今日から、私たちの『唯一の目撃者』兼『協力者』よ。……断る権利はないけれど、いいかしら?」
氷の微笑と、太陽の威圧。
ライルはゴクリと唾を飲み込み、震えながらも深く頷いた。
「……わ、わかりました。僕、精一杯……『先生たちの秘密』を守ります!」
こうして、二人の「生存確認」に、一人の少年が巻き込まれることとなった。
そしてこの契約が、後の王国の陰謀を暴く大きな鍵になるとは、まだ誰も知らない。
🔚