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おたずね者の星
はぁっ、はぁっ、
逃げなきゃ
あいつが あいつがくる
空を見上げれば、俺を目掛けて火の玉が獲物を狙うタカの様に飛んでくる。
地面につけば、一瞬で炎が柱となり、地面へ燃え広がってゆく。
足が痛い
広がった炎のゆらめきの間から、鋭い眼をした巨大な何かが迫ってきているのが一瞬見えた。
待って。と言おうにも、言葉なぞ通じるわけはないと、俺はわからなかった。
あっ
ドサッ
焼けただれてしまったのだろうか。
足が動かない。
逃げろ、と唱えても、動かない。
置物のように
しゅぅううううう…
音が聞こえる。
あいつが見える。
金色の目をし、鋭い牙を持った、闇夜の様に暗い毛色。
触れるだけで切り裂かれそうな爪、大きな耳。
俺の前に、巨大な口内が迫り来る。
あぁ
ろくな人生じゃなかったなぁ
せめて 親の顔くらい 見ておきたかったなぁ…
しゃっ
突然、強い風の音がしたと思えば、目の前のあいつが口を上向きにして悶え始めた。
何が起きているんだ
目の前に誰かが立っている。
「さっさと逃げろ」
目の前の人はそう言うものの、俺は動こうにも動けない。
「チッ、足がやられてるか」
そう言うとその人は、見えぬほどの速さで消え、あいつを強く踏み抜け、ドス黒い血しぶきと共に降りてきた。
「他が来る前に連れてくぞ」
「えっ」
その人は俺をひょいと抱え、ズイズイと風の様に駆けていく。
広がり切った炎の中を抜けたところで、俺はついに意識を失くしてしまった。
---
気がつけば熱いものも感じなくなって、涼しい空気が足の裏から伝わってくる。
「…知らない天井だ。」
目を開けば、実に1年ぶりの屋根の下だった。
「意識が戻ったか。」
あの時と同じ声がする。
声の方を向こうと首を動かすと、そこには白い髪をもった、青い目の人がいた。
「えっと…貴方は。」
「ラヴィカ。」
もしかして、この人が俺を助けてくれたのか。
「お前、名前は。」
「シュテルです。…あの時はありがとうございました。」
「いいよ。仕事のついでだったし。無事でよかった。」
仕事?
あの化け物を倒すのが、仕事なのか。
ラヴィカさんはそう言うと、しばらく黙ってから、こう口を開いた。
「足の怪我も、火傷だと。3日は安静だな。」
「そうなんですか…退院したら、改めて働ける場所を探さないと。」
「仕事を探してるのか?」
ラヴィカさんはそう聞くと、俺を不思議に見つめてきた。
「…なんですか。」
「ならうちで働かないか?」
えっ?
---
あれから3日、俺は成り行きで働けることになった。
退院する前日にもらった地図をもって、俺はラヴィカさんの所まで行った。
「ここが…」
だいぶ古めかしくも、隅まで手入れが行き届いているのがわかる建物がそこにはあった。
「ていうか、合ってるのか、ここ…店の名前も無いし。」
だけど、妙に安心する。
不安だ。不安だけど、不思議とここが居場所のような気がして、離れ難い。
「さっさと入れよ。」
「うっわあぁあああっ!!!ラヴィカさん!?何故!?」
「まぁ俺の店だからな。」
さっさと入るぞと言って、ラヴィカさんは俺の前に立って、ドアを開けた。
病院では寝てたから気づかな買ったけど、結構小柄な人だな。
それと、もう暖かくなってきているのに、肌を顔のあたり以外一ミリも出していない。なんなら手袋もしている。
「お邪魔します。」
店の中には変わった物がたくさん置かれている。ひとりなら余裕で歩ける程度の空間が、ぐるっと店の中で続いている。
「おっと、ぶつからないように気をつけろよ。」
机とかカウンターの上にも、細々した道具がズラリと敷かれている。
「うちはついでで古物商やってんだ。」
「ついで…?本業じゃなくて?」
「本業は"おくりびと"だ。この前見たろ。」
あの化け物を倒すのが本業なのか。
「じゃあ、あの化け物を倒す仕事…?」
「そうだな。」
「俺死ぬじゃないですか。」
「まぁ死ぬかもな。」
「…」
まだ仕事にありつけるかわからない身分で、嫌とは言えなかった。
「古物商は。」
まだ安全な仕事が残ってる希望に賭けて、俺は聞いてみた。
「古物商は…たまにしか開けないから、難しいな。」
「じゃあできない間は俺が開きますよ!」
「…趣味でやってるのが大きいし、そう簡単に任せられない。」
終わった。
「嫌だったらやめてもらっても構わないが。」
「…いえ、働かせてください…」
「じゃっ、契約書持ってくるから、サインよろしくー。」
軽い足取りでラヴィカさんは契約書を用意し始めた。
なんだろう。この気持ち。
嬉しいはずなのに全く嬉しくない。
「…700レルド」
安い。賃金が安すぎる。最低をすごく下回っている。
サンドイッチを二つ買えば無くなる金額だ。
でも…働けるかわからないから働くしかない…
「賃金に不満か?」
まずい、声が漏れていた。
「いやっ、違うんです!」
ここで働けなくなったら…
俺の小心者…!あんなことを思わなければ…!
「仕事が危険な分、衣食住を提供しようと思ってな。不満なら底上げするが。」
「不満ないです!是非働かせてください!」
嬉しい。偽りなくとても嬉しい。