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人魚と僕とアクアリウム An epilogue
なぜかエピローグができました。
そしてもう気づいた人は気づいたでしょう。
話数、一個ずつずれました。
一話がプロローグになりました。
まぁ、気づかなかったらそれでもいいんです。
もっと重要なお知らせです。
正解者二人目、おめでとうございます。
星屑さんはすごいんです。
これからも星屑さんをよろしくお願いします!
「どこにいったんだ…」
つい先日、息子のように可愛がっていた患者の男の子が突然病院から消えた。
原因不明の病にかかっている彼には、この前寿命わずかだと伝えたばかりだった。彼は事実を受け入れ、それでも瞳には光が灯っていた。これなら…!と希望を持った矢先の出来事に、私は冷静ではいられなくなっていた。
なぜ、今。
もしや、瞳の中に映っていた光は|仮初《かりそめ》のものだったのだろうか。
私が気づいてあげられなかっただけで、彼の胸の内は絶望に塗りつぶされていたのだろうか。
「せんせー!これ見て!」
同じように彼を可愛がっていた看護師が駆けてきた。右手には画面が光った携帯が握られている。
彼女は息を整える時間も惜しいと言わんばかりに、携帯の画面を私の眼前に突き出した。
そこには、とある投稿が写っていた。
【夜行バスから病院服の男の子が降りてきたんだが。なんでこんな時間に海に行くんだ…?止めた方がいい?】
「先生…これ、|青澄《はると》くんですよね…?」
投稿に添付されていた写真に写っていたのは、紛れもない彼の姿。
海にいったと書いてあっただろうか。
海。
自殺にはもってこいの場所。
この瞬間、私は彼が死んだことを確信した。
私は、一人の人間を見殺しにした。
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あれから二十年経ったが、今でもあの子の顔は忘れられない。いや、むしろ時が過ぎ去るたびにより鮮明になっていく。
彼は、私を許してはくれない。
だから、精一杯の罪滅ぼしを繰り返す。
今日も私は彼が自殺した浜辺を訪れた。潮風が心地良い。
砂に足を取られながら、手に持った花を水際に置く。毎日は来れないけれど、それでも月一でここに花をたむけている。
少しの間彼との記憶に思いをはせた後、すぐにそこを去ろうとする。昔も今も、ここにいるのはたまらなく辛い。
だが、今日は去れなかった。
目の前に、青澄の幽霊が立っていたから。
「…先生?」
呆けた声もまた、彼にそっくりで。
気づけば私は砂浜に崩れ落ちていた。
「ごめん…本当にごめん、青澄…」
「ふぇっ!?せ、先生立ってください!砂ついちゃいますよ!」
青澄の慌てた声がして、肩に誰かの手が乗る。
見上げれば、青澄の手だった。
青澄が、僕の肩を掴んでいた。
「青澄?なんで幽霊なのに僕に触れられるんだい?」
「何言ってんですか先生…僕、生きてますよ?」
二人の間を、潮風が吹いた。
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「なるほど…君は自力で病を治したんだね」
「まぁ病じゃなかったんですけどね」
青澄が語った“これまで”は、私にとって衝撃的なものだった。だが同時に納得もしてしまう。アクアリウムの人魚についての論文は世界各地から上がっていたが、その情報と照らし合わせれば全ての症状に辻褄が合うのだ。
「やはり、私は君のことを救えていなかったのか」
私は青澄の病を治すことができなかった。その事実よりも、青澄のそばにいてやれなかったことが私に強く刺さった。
私は、医者と名乗る資格すらもないのかもしれない…
「そんなことないです!先生はいつでも僕を救ってくれたじゃないですか!」
彼は言う。家族がいなかった自分にとって先生や看護師さんたちが家族だったと。先生がいたから、自分は生きる希望を失わなかったのだと。
その言葉が、そこにこもった想いが。
私の中の鉛を溶かしていく。
「…やっぱり君は医者に向いていると思うよ。相手の欲しい言葉をそのまま渡せることは、医者にとって必要なものだ。うん、今からでもどうだい?」
「だから無理ですよぉ!医者ってめっちゃ勉強しないとなれないし…」
「まあまあ、私が教えてあげるから」
「勘弁してください!前に勉強教えてもらったときの地獄はまだ記憶にこびりついてるんですから…」
彼がへにゃりと情けない顔をする。あまりにも面白くて、おもわず吹き出してしまった。
何笑ってんすか、と涙目の彼にぺしぺし叩かれながら私は気づいた。
こんなふうに笑ったのは、彼と過ごして以来だったな、と。
彼はやはり、幸せになれる。
彼は、多くの人に幸せを与えられる。
これも一種の才能だなと、やはりぺしぺし叩かれながら思った。
この後、青澄と談笑していたら海から現れた人魚に「浮気者ぉ!」と|詰《なじ》られ、二人の固い絆(?)で必死に釈明することになったのだが、それはまた、どこかの機会に。
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あるところに、にんぎょさまがおりました。
にんぎょさまはいつもひとりぼっちでした。みんな、わたしのことをながめるだけではなしてもくれない。にんぎょさまはさびしがりました。
あるとき、おとこのこがはなしかけてくれました。にんぎょさまはおおよろこび。ああ、これでさびしくなくなる。
それから、ふたりはたくさんたくさんおしゃべりしました。にんぎょさまは、しあわせでした。
でも、しあわせというものはながくつづきません。いまもむかしもそれはおなじです。おとこのことにんぎょさまははなればなれになりました。
でも、ふたりはあきらめませんでした。さまざまなこんなんをこえて、ふたりはまたであいました。
ふたりはちかいます。
どんなこんなんも、ふたりでこえていくと。
さて。ふたりは、しあわせになれたのでしょうか。
それはわかりません。
わかりませんが、ふたりとも、わらっていました。
りくでは、あるうわさがながれました。
あるはまべには、ふたりのにんぎょがすんでいると。
そのはまべでは、ときどきふたつのうたごえがきこえてくるそうです。
ひとつは、うつくしいおんなのこのこえ。
ふたつめは、ぶきようながらもけんめいにうたうおとこのこのこえ。
それをきけたら、しあわせになれるそうですよ。
めでたし、めでたし。
やっっべ長い。
過去最高きました。詰め込みに詰め込んだらこうなっちゃいました。ゼェハァ
お分かりいただけたでしょうか。この小説は、「マーメイドラプソディー」という歌の曲パロです。こちらで認知した正解者は星屑師匠と親戚のべりおじさん(?)です。おめでとー。
めっっちゃ長い間お付き合いいただき、ありがとうございました!たぶんこれからも続くので、よろしくお願いしまう!