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きょうだい星
むかしむかし、宇宙の中に。お母さん星が二人の兄弟を産みました。お母さん星は太陽で、二人はその周りをぐるぐると回っています。弟は足が速く、一年が通り過ぎるのも早いです。
一方、兄はゆったりと巡り、一年が過ぎるのがとてもゆっくりです。
弟に比べ、兄は一年の中でやることがたくさんありました。
雨を降らし風を吹かせ、時には雷を起こし、冬には雪を降らせ……。毎日毎日、ゆったりとした時間の中、濃密な仕事の量が待っていました。
ふうふうと息を切らしながら、兄星は巡っていきます。その傍ら、弟星は「お先に!」と追い越していくことがよくありました。兄星はそれを羨ましそうに眺めつつ、足の遅い自分を恨めしく思っていました。
ところが、とある日。すれ違いそうになったとき、弟星が困ったような顔をしています。
「どうしたんだい」兄星が聞くと、弟星は答えます。
「最近、食べ物が腐るのが早いんだ。そのせいで、住んでる人たちが……動物たちが困ってる」
聞けば、弟星は1年が過ぎるのが早いぶん、生き物の成長が早いぶん、食べ物が駄目になるのも早いと。一方、兄星はそんなことはなく、人々は大変ながらものんびりと過ごしています。
「それは大変だね」と兄星。いつも弟のことをうらやましく思っていた兄星でしたが、だからこそ疑わしい気持ちがありました。
「それなら、ぼくの星に一度人々を移り住ませたらどうだい?」
兄星の提案を、弟星はとても喜んでくれました。
弟星は早速、兄星の陸近くに近付いて、生き物たちを引っ越させます。
すると、どうでしょう。疲れ切った人々は、慣れない暦に驚きつつも、ゆっくりと過ぎていく時間に心を休ませることができ、少しずつ余裕が増えていきます。
植物はすくすくと育ち、根は前よりもずっと太く丈夫に。
動物たちはゆっくりと夜に眠ることができ、人々も一日一日を感謝して生きる余裕が生まれ始めました。
何より、食べ物が腐る前に食べきることができ、駄目になることがほとんどなくなったのです。
「すごいや、兄さんは」弟星は感心したように告げます。
ぼくはなにもしていないよ。兄星が言いかける前に、弟星が続けます。
「ぼく、足が速いのがとりえだと思ってたし、その方がいいと思ってた。でも、違うんだね」
「急ぎすぎちゃうと、みんな、疲れちゃうんだ」
その言葉に兄星はハッと気が付きました。
確かに、弟星に居た頃よりも生き物達の顔が穏やかになっていること。
相変わらず自分は忙しいけれど……その分、みんなの生活が守られていること。
「ぼく、これからは兄さんの仕事を手伝うよ。その代わり、ここの近くにいても良い?」
「ああ、いいよ」
弟星の提案を、兄星は穏やかな顔で受け入れます。
「足が速いぶん、細かいところも見れるだろう。君は仕事が速いし、手伝ってくれたらとても助かるな」
兄星の穏やかな笑顔に、弟星は嬉しそうに頷きました。
こうして、兄星には新しい惑星がくっつくようになりました。
忙しなくぐるぐると走り回り、汗をかいてお母さん星の光を反射する弟星は、やがて「月」と呼ばれたのだそうです。
(おしまい)