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〖塔に絡む髪〗
昔々、ある夫婦がいた。子を授かった妻が、隣の庭に生えているラプンツェルという草をどうしても欲しがり、夫はこっそり盗みに入った。だが、その庭の主は恐ろしい魔女だった。魔女は怒り、罰として生まれてきた娘を奪った。娘の名はラプンツェル。彼女の髪は黄金のように美しく、やがて塔の中に閉じ込められ、外の世界を知らぬまま育った。
「ラプンツェル、髪を下ろしておくれ」
魔女はその長い髪をよじ登り、塔へ通った。
ある日、一人の王子が塔の歌声を聞き、その美しさに心を奪われた。やがて王子は魔女の真似をして髪を登り、ラプンツェルに出会った。彼女もまた、初めて見る外の人間に心を寄せた。秘密の逢瀬を重ね、二人は塔からの逃亡を夢見る。
──だが、魔女は気づいていた。
「この裏切り者め」
魔女はラプンツェルの髪を切り落とし、彼女を荒野へ追放した。
王子が塔を訪れると、待っていたのは切り落とされた髪と、魔女の嘲笑だった。王子は絶望のあまり塔から身を投げ、茨に目を潰されて彷徨い歩く。
一方、ラプンツェルは荒野で孤独に過ごした。飲む水もなく、食べ物もなく、ただ切り落とされた髪を抱いて泣き続けた。
──それでも、王子は彼女を探していた。
盲目のまま彷徨い続けた王子は、やがて荒野に横たわるラプンツェルの亡骸を見つけた。髪に絡みつかれた彼女は、すでに冷たくなっていた。
王子は泣き叫び、ただ暗闇の中で彼女を抱き締め、静かに息絶えた。
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塔は今も森の奥に立ち、風が吹く度に切り落とされた髪が揺れている。まるで二人を絡め取った呪いが、永遠に解けないことを告げるかのように。