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1.クランは、旅立つ
「それじゃあ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃい。無茶をしたら駄目よ」
「大丈夫よ。それに手紙も時々は書くから安心して」
「ああ、充実した毎日を送ってくれよ。グスッ……」
あらら……お父様、泣いているじゃない。そんなに心配してもらえるなんて、わたくしは幸せよ。まだ嫌う気持ちも残ってはいるけれど、しばらく会うことはないし、今は一旦水に流すとしましょう。
今の状況を簡単に説明するわね。
「約束」を必ず守らなくてはならないという、祝福にも似た呪いをもつわたくし、クラン・ヒマリアは、人と会話して、「約束」をして、人の人生を狂わせる危険性に改めて気づき、一度人間関係をリセットしよう、と考えたの。そのために、隣国のサスティーナ国のファブロー学園に留学することにした。
ファブロー学園の留学試験に受かったのがつい最近、そして、わたくしはさっそくサスティーナ国に旅立とうとしている。
説明すれば、ただこれだけよ。簡単すぎたかしら? きっと大丈夫よね。わたくしが言うんだもの、心配いらないわ。安心して。
「いってらっしゃ~い!」
「いってらっしゃいませ」
日曜日、わたくしはお母様と使用人たちの声を背に旅立った。お母様にも会えたから、とても嬉しかったわ。
正式に留学できるのは新年になってかららしい。
旅程も考え、余裕を持たせたら、これぐらいがちょうどいい、となったらしいの。
そして、旅立った。旅程は9日。かなり余裕を持たせたらしいわ。
そして、家を出たわたくしたちの一行は、まず、王都に差しかかった。
「……」
……なぜ、わたくしの聖女姿と似たような服をしている方がいらっしゃるのでしょう?
いえ、そのことは少し前に気づいていたわ。だから、今回問題なのは、なんでその時以上にその恰好をしている方が増えているのか、よ。
クランは知らない。聖女クレアとしての服装が貴族の家に出入りできるようになる立身出世のお守りの意味を持つようになったことを。
二日後。
順調に馬車は進み、今日休む街までやってきたわ。
流石公爵家ね。
馬車の進みがかなり早いわ。それに頻繁に馬も乗り換えるため、スピードが落ちないわ。なんて好待遇何でしょう!
公爵令嬢なんて、普段は面倒くさい役割しかないけれど、今はただ、感謝したいわ。
そして、街の中央の方までやってこれた。その感想は……
「綺麗な街ね」
だった。いえ、ちゃんと驚いてるわ。王都以外でこんなに綺麗な街、今までに見たことがないもの。今までに十分な数の街を見てきたとは言えないけれど、その数少ない経験の中でもトップクラスよ。
その街で一泊した。
宿にも大満足よ。
この街を過ぎたらしばらくは野宿生活となる。いちおう馬車にはわたくしの分の寝床はあるからわたくしはあまり野宿とは言えないでしょうけど。それでも裕福そうな馬車が盗賊や魔物にまったく襲われないとは考えにくいもの。寝床の前に、十分な警護が必要だわ。
それに今までの馬のとっかえひっかえがあまり使えないからね。進む距離も短くなってしまうわ。
今、わたくしたちが持っているのはお父様から預かってきたお金。金貨200枚。そして自分で聖女の仕事をして稼いだお金。ほぼ同数。わたくしが試験を受けたりしているうちに、わたくしが受けた依頼の成果が出たと判断されたらしく、そんな感じになっているわ。……さすがに多すぎないかしら?
そして、服は最小限に持ってきた。
一応多少の文化は違うらしいので、使いにくい服をたくさん持って行っても困るだけだと思うのよね。
そしてサリアとカナン。
そして護衛が数名。この護衛は公爵家の兵士なのだけど、わたくしたちを送った後、一度戻って、わたくしたちを迎えに来るときにはまたこちらに……サスティーナ国にくるみたい。
大変ね……思わず同情してしまったの。
そういえば、護衛の中にケルートもいたわ。
わたくしと同年代なのにもう抜擢されているなんて……本当に優秀だったのね。
果たして、盗賊は現れた。
始めはなめ腐った態度をとって来ていて非常にカチンときたわ。抑えたけれど。
そしてさっさと倒してやったわ。護衛の者が数名のこって届け出を出してくれるらしい。助かるわ。
そして、魔物もやはり現れた。
今回出てきたのはサイガー。珍しく、強いわりに名前が短い魔物だったわ。
この魔物は火属性。そして推定討伐人数400人。この前の交流戦に行くときに現れたがベストラージよりはるかに弱いため、あまり手間をかけずに倒すことができた。
……これ、護衛っているかしら? 申し訳ないけどそんなことを思ってしまった。
「今日はこの宿に泊まろうと思います」
野宿生活が終わった。行程も今日で6日目を迎えていた。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
キョロキョロとあたりを眺めていたら、そんなことを尋ねられた。小さな女の子に。
「この街に初めてきたの。面白いなぁと思っていたのよ」
「初めてなの? じゃあモモが案内するよ!」
「いいの?」
「うん!」
モモに案内されるがまま進んだ。
「あのね、ここはね、モモの家なの」
まあ…! なんて可愛らしいのでしょう! 案内するといって始めに連れてくるのが自分の家だなんて。
「あそこはね、むうくんの家なんだ。かっこいいんだよ」
「そうなのね」
「それでね、この前……」
いつの間にか案内が思い出話へと変わっていた。
この子はむうくんという方に懸想をしているのかしら?
「モモちゃん、あなたは可愛いから、それが分かってもらえたらうまくいくわ」
「本当!?」
「きっとね」
そして、モモとは別れた。
……結局、案内はほとんどされていないのだけど……可愛らしいので許しましょう。
「お嬢様、探検はお済みで?」
「ええ、だけどここで一着服を買っておきたいの」
「そうですか? この街は庶民層ですのでそこまで上等な服は無さそうですが……」
「サリア、わたくしは新しい学園ではあまり裕福そうでは行きたくないの。考えている性格にもあまり合わないわ」
そう、馬車でずっと考えていた。
これからどんなキャラで行くべきか。
そして、その結果。
一番楽しく過ごせた、孤児たちと接していたように過ごしたいと思った。
だから、そんなに貴族っぽくいたくないの。喋り方は仕方ないとは思うけれど……
そして……「約束」をはぐらす事については、自分から「約束」をすることはしなければいい。わたくしが相手に持ちかけたら、相手は軽く考えているかもしれない、だったら相手から持ちかけられたことで、出来そうなものを「約束」すればいい、と。
そして、そのためにもこれはキャラとかではなく、はぐらかす、という行動で示そうと思うわ。
……この性格が身に着けば……あちらでも普通に過ごせるでしょうから。
わたくしはそっと祈った。