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猫の首に鈴をつける
イソップ童話を元にした慣用句に、『猫の首に鈴をつける』と言うものがある。
名案であっても、実行するのは困難であることのたとえらしい。
猫の首に鈴をつけるには、少なくとも1匹の犠牲が必要。
誰だって、進んで死に急ぎたくはないだろう。
椿「そう言うわけで、君の首にも鈴はついていないのかなぁ、なんて思ってみたり」
椿の向かいに座った彼は、居心地が悪そうに明後日を向いている。
椿「誰が鈴をつけるのか気になるんだけど、ミケくんの予想は?」
黒宮「先ず、私はミケじゃない」
椿「ミケでもクロでもどっちでもいいでしょ。変なところでA型っぽくならないでよ」
上っ面で笑い、椿は黒宮と目を合わせた。
椿「君に虐められた鼠たちが、色々画策しているみたいだから。まあ、一応、気をつけてね」
黒宮「椿さんの方が先に死にそうな台詞だな」
椿「不謹慎だなあ」
黒宮の赤眼が妙に黒っぽい。
不吉な予感、虫の知らせ。
そういったものを感じる。
黒宮は、何か視えているのだろうか。珍しく目が合わない。
椿「まあ、お互い気をつけようね〜ってお話しでした。じゃあ、またね」
軽く手を振って店を出る。
相変わらず、梅雨の空はどんよりと重たく暗い。
天気とは裏腹に、椿の気分は高揚していた。
椿「僕のところに鼠が来てくれたら最高だよね。久々にやり甲斐のあるお仕事だ」
わざわざ裏道を使って『会社』へと向かう。
残念ながら、そう都合よく『鼠』も現れてはくれなかった。
椿「こっちから出向いてやろうかなー。ただ待つだけじゃつまらないし」
後輩に意見を求めれば、『勝手にしたら』だの『どうでもいいよ』だのと色良い返事は返ってこない。
椿「蟷螂くんはどう思う?」
書類の山の影から、文句が聞こえてきた。
イツキ「今忙しいんやけど!!!」
椿「見ればわかるから説明しなくて良いよ」
イツキ「やったらしょーもないこと聞くな!」
ウィルス相手に数日間格闘したせいで気が立っているようだ。
仕方なく、早々に『会社』のビルを出た。
椿「…なんか、最後の挨拶みたいになってるな〜。自分で死亡フラグ立ててどうするの、本当に」
相変わらず独り言が多い男だ。
自宅に帰るわけにもいかず、適当に街を彷徨く。
ふと、背後に気配を感じた。
何度か感じたことのある、重たい気配。
椿「これ、鼠かな?鼠ってこんな中ボス感のあるキャラだっけ?」
理解し難い台詞を吐きながら、振り返る。
椿「僕の首に鈴をつけに来たなら、君じゃあ力不足だと思うけど」
『鼠』は答えない。
そして、閑静な住宅街に銃声が響いた。
死体が、また一つ増える。
椿「……どっかの誰かさん、なんで邪魔しちゃったかな…」
額を撃ち抜かれた死体など、何度も見たいものではない。
椿「さて、最後に答え合わせしよう」
何年も使い続けてきたナイフを取り出した。
椿「僕の首に鈴をつけるのは、僕自身だ」
今まで通り、いつも通りに頸動脈を狙ってナイフを突き刺した。
また、死体が増える。
フラグというものを、初めて使ってみました
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