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光の当たる場所で 最終章
エピローグ:あの日、声をかけてよかった
春の匂いが風に混じっていた。
俺は、駅前のカフェに向かって歩いていた。スマホの通知には一通のメッセージが残っている。
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From:佐倉ユウト
《大学、合格したって聞いた。会える? ちょっと話したいことある》
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あれから3年。
俺たちはそれぞれの道を歩いていた。
ユウトは美術系の高校に進学し、漫画・イラストの道を本格的に目指し始めた。
俺は普通の進学校で受験勉強に追われながらも、たまに連絡を取り合っていた。
今日、久しぶりに会う。
カフェに入ると、角の席にユウトがいた。
黒縁メガネはもうかけていなかった。髪は整えられ、雰囲気も少し大人びて見える。
「よう、久しぶり」
「……うん、マジで久しぶり」
少しの沈黙のあと、ユウトはニコッと笑った。
「いろいろ話したいことあるけど……まず、これ見て」
そう言って、カバンから一冊の薄い本を取り出した。
表紙には、あのときの少年キャラが堂々と立っていた。背景は光の射す空。
「——初めて、自分で描いて出した同人誌。イベントで完売したんだ」
俺はページをめくった。
その絵は、昔のスケッチブックよりもずっと力強くて、感情が伝わってきた。
「すげぇな……これ、プロでもいけるだろ」
「そう言ってもらえると、ちょっと自信つくよ。
あのとき——助けてくれたこと、ずっと感謝してる。
でも最近、やっと思えるようになった。
“自分で立ち上がった”って。あのときの俺、逃げなかったからって」
俺は静かにうなずいた。
「うん。お前が立ったから、俺も動けたんだよ」
あの日、声をかけてよかった。
あの日、動画を出してよかった。
あの日、「見てるだけ」をやめて、本当によかった。
ユウトの描くキャラクターは、もう孤独じゃない。
光の中で、まっすぐに剣を構えている。
それは、まるで——あいつ自身の姿だった。
店を出ると、空は春らしいやわらかな色をしていた。
進学、夢、未来。
俺たちはもう“過去”にはいない。
これからの時間を、自分で選べる場所にいる。
光の当たる場所で、今、ちゃんと生きている。
【本当に完】
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向日葵柚子月さん。感想、リクエストありがとうございました。向日葵柚子月さんが思ったとうりの小説になりましたか?なってれば嬉しいです。
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この小説が、いじめに関わっている人の心に響きますように。 彩り豊かな小説を。