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ラムネロケット
「準備はいい?」
|日渡《ひわたり》はニヤリと笑ってこちらを向いた。
「おう、」
少し声が震えてしまったかもしれない。
緊張しているのがバレたくなくて、無理やり笑ってみる。
「ビビってんだ。笑」
だけど無謀だ。日渡には全部お見通しらしい。
日渡はふっとドヤ顔を俺にかまし、勢いよくラムネ玉を叩く。
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「駄目だ、全然いかない」
お前も手伝って、と云うような目だ。
仕方ない。俺にだって優しいところはあるし。
ラムネ玉は綺麗な藍白だ。叩くには勿体ない気もした。売ればさぞ金になるだろう。
「…売ろうとか思ってるならしばく」
俺は無言で叩き始めた。バンバンと叩く音が響く。
ふと日渡の方を見ると目があった。
と、それと同時にぷしゅ、と音が聞こえた。
ラムネ瓶は地面に反発しながら空高く上っていく。
体がふわっと浮かぶ感覚がして、背中に重みがかかる。
ラムネ瓶はどんどん上っていく。
気づくと雲はもう目の前だ。
「日渡、ぶつかる」
きゅっと目をつむる。日渡は変わらず俺に背中を預けたままだ。
ほんの一瞬、もふもふしたものが顔にかかった。太陽を反射した雲の欠片が目の前に弾け飛ぶ。
目を開けた頃には、雲を超えていた。
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「日渡っ、」
「うん」
言いかけた言葉に蓋をするように、日渡は頷く。
分かってるとでも言いたげな目だ。全然、分かってないくせに。
「今日は学校、サボっちゃおっか」
日渡が言った。それに便乗するように加速していくラムネ瓶。
「これ、どこに行くのかな」
ふと口に出してみる。
わかんない、日渡はそう言ったけど、目線はまっすぐ前を向いていた。
「ずっとずっと上の方。誰も行ったことない、見たことないとこ」
「そんなとこに行って気楽に生きたい」
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彼らを乗せたラムネロケットは、遥か彼方で今も光っている。