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20.旅立ちと王族
「行ってらっしゃいませ」
そう言われ、馬車は動き出す。
……見送る側は、まさかここに皇后様がいるとは思わずに。
ちなみに、転移魔法を使えばいい、と思われるかもしれないが、転移魔法は聖女と悪魔しか使えない。
それに、同行者の数は限られているし、魔力を多く使う。
さらには、1回行っているところじゃないと、行けない。
前回、転移を使ったのは。その後に魔力を使う予定がなかったからだ。
しかも、自分だけだったらより消費を抑えられるし。
手を振って、隣国……シュバルツ帝国へ向かう。
この王国……デカンダ王国……と、サーベスト教国は、隣同士だ。
だが、その間には、険しい山脈がある。
だから、通る時はシュバルツ帝国を通ってサーベスト教国に行く必要があるのだ。
旅は、1ヶ月半を予定している。余裕のある行程だ。
宿は、その時の神殿。
そして、併設された孤児院でついでに慈善事業も行う。
そんな感じだ。
「静かになっちゃって、どうしたの?」
「いえ、何故ここに皇后様がいらっしゃるのかが理解できず、現実逃避中ですよ」
隣ではエリーゼが震えちゃっているし。
「あらら、悲しいことを言うのね。さっきも言ったけど、わたくしは以前から貴女にあってみたいと思っていたのよ?」
「理由をお伺いしても?」
「だって助けられたもの」
「……どこで?」
まったく心当たりがない。
「ユウナだけが召喚されなかったこととかよ?」
「そんなにユウナはやばかったんですか?」
「噂は聞いてないの?」
「ユウナに関する噂だったら……嫌がらせをしているとか、誑かしているとか、ですか?」
「それよ! ……あんまり大事に捉えてないようね?」
「ありそうなことですしね」
「それが当たり前の世界だったの?」
「いえ、そういうわけでは。ユウナの性格が、という意味です」
「ああ、そんな感じだったのね」
「そうですよ。あの……皇后様はいつ頃から計画を進めていたのですか?」
「わたくし? そうね……3年前くらいからかしら?」
「そんなに前から……大変なこととかはなかったんですか?」
「いろいろあったわよ? もともとは聖女が来る予定はなかったもの。聖女が来たあとにそれに変えるのが大変だったし、」
「まあ聖女が召喚される前にこの情報は広まっていたから、お陰でサムエル枢機卿も巻き込めたんだけど。結構助かっちゃったわ」
「そうですか……」
サムエル……もともとこっちに来る予定なかったってことだし、暗殺も請け負う予定ではなかったんだ。
いや、主にこれに関わったのは教皇様の方なんだろうけど。
「教皇様にはどうやって会ったんですか?」
「ああ、それはね、水晶を使って電話してたのよ」
電話……会ったんだ……
意外と魔法のおかげか、日本にもあるものがあるんだよな……
「そうなんですね……」
「あとは……聖女奪還のときに騎士が簡単な罠にもかかちゃったり、あれはめんどくさかったわよ?」
そうですか……
「けど一番の想定外はユウナね。あのせいでちょっと馬鹿かな、くらいで見過ごせるうちだったムニダスの馬鹿さ加減がひどくなったもの。|セシル《第二王子》とか|マナウィル《第三王子》が引っ掛けられなくて良かったわ」
さいですか……
「お疲れ様です……」
「そう、本当に大変だったのよ」
ん?
皇后様、やけに話を引きずっていない?
「なにか他にも用事があるのですか?」
「あ、気づいたの? サムエル枢機卿に、少し問いただしてみたのよね……」
ん?
枢機卿、の立場にいる人物を脅すの?
「そしたら、あなたの目的はミア様と似たような儀式を行うため、なんだっていうじゃない」
「まあそうですね。それがどうしました?」
「昔、面白い文献を読んだのよ」
「?」
「それは、ミア様について書かれていた文献だったのね。それで、儀式のところに、神器を手作りしたって書いてあったのよね〜」
「手作り……ですか?」
なにそれ?
私。不器用なんだけど?
作れる?
「ま、それを伝えに来た、ていうのが目的よ。気付かれなかったら隠し通すつもりだったんだけどね」
「ありがとうございます」
「もうすぐこの街を出そうだし、わたくしは帰ることにするわ。頑張りなさい」
最後は……やはり、皇后様、という感じの貫禄があった。
こりゃあ頑張らないと。
「……やっとくつろげます……」
どこの神殿、孤児院でも、
「いらっしゃいませ、聖女様!」
大きな歓待をしてくれる。
それに、少しは豪華にしてくれる。……地球の味に慣れちゃったから、物足りないな、とは思ってしまうけど。
けれど、孤児達が珍しい、ちょっと豪華なものを食べる機会になるんだから、まあいいんじゃないか? と思ってる。
経営は大変かもしれないけど。
そして、旅立ってから2週間ほど。
「ここが帝都?」
「そのようですね。活気があふれています……」
そう、デカンダ王国よりはるかに活気があった。
ここには1週間ほど、休養をかねて滞在する予定だ。
私たちは、神殿につき、快く迎えてもらえ、部屋に向かって、休憩もままならないうちに呼び出された。
「王太子殿下が聖女ミア殿に会いたいと訪問しておられます。ぜひ会ってもらえませんか?」
第一王子のせいで王族には嫌な思い出が多い。
それに、こんな簡単に王族が顔を出していいわけがない。
嫌な予感がしたままいくと、
「父上の病気を治してはくれまいか?」
え?そんな簡単なの?
「病気の内容にもよりますが……」
「父上は、癌? という病気だそうだ。かなり深刻な状態らしいが……」
「あ、癌なんですね。だったら何とかなるかもしれません」
「助かる。……あと、」
「何でしょうか?」
あまり聞きたくない気がする。
「貴殿は優秀な聖女であると聞く。行儀もいいらしいな。そこでだ。俺の婚約者の教育を手伝ってくれないだろうか?」
は?
「遠慮します」
こういうのは、バッサリ切るのが後腐れがなくていいよね♪