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4 - 腹部刺創
辺りはシンとしている。もう夜も更けたんだ。
こっそり部屋を抜け出して、キッチンに入る。
灯りを点ける。そうしないと探すにも探せない。
「みーつけた。」
誰にも悟られないように、小さく呟いた。でも、その声は 静まり返った空間に反射して響き渡る。
手に取ったそれは、灯りの|下《もと》に鈍く|煌《きら》めいた。
灯りを消す。暗闇に包まれ、一寸先も見えない。
灯りはないはずなのに、それはずっと輝き続けている。|獰猛《どうもう》な|鈍銀《にぶぎん》が、その存在を主張している。
暗闇で何も見えないはずなのに、それはキッチンの姿を映していた。
壁にもたれた。
私は上を向いている。
首の付け根を、手で押さえた。あちこちにその手を|這《は》わせ、脈を探す。
———顎のすぐ下に、それはあった。
ドクンドクンとした感覚が、|生《いのち》を訴えている。
———すぐに絶ち切るよ。文字通りの意味でね。
鈍銀を、そこに当てる。チクッとした。ひんやりとした感覚が、神経を伝って脳に届く。
ひゅっと息を吸った。
それを握る手に力を込める。———
———何も音は聞こえない。
ビリビリとした痛みが、走った気がする。
噴き出す血が、暗闇の中に見えた気がする。
血の匂いを鼻で感じた。でも、それが脳に届くことはない。
———暗闇と静けさの中に、生臭い匂いは 溶けていく。