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〖2つの爆弾〗
参加キャラの影が薄いなと。戦闘面で活躍させるとしよう
語り手:松林葵
締め切りが近い。ネタがない。原稿が進まない。鳴り響くのは担当さんの焦る声。
私は動かない。焦らない。だって、かの有名なスタンド作家も動かないから。
●松林葵
20歳、女性。同人作家。漫画や小説など幅広くクリエイターとして活躍する女性。
作者的にはヤベェ奴だとレッテルを貼っている。ネタ枠。メタい。
世に出した作品はジャンル問わず、|百合《GL》や|薔薇《BL》、奇病等のため、読者からは〖好き嫌いのない意欲的な作家〗と呼ばれる。
彼氏はいない。彼女はいない。そこそこ面喰いだが、平凡顔でもいけるようである。
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鳥の囀りが響き朝日が昇る空。徹夜明けである。
時刻は午前6時、空知や柳田は別の部署で仕事にあたり、他の従業員は初日だということもあって残業をせずに帰宅したわけだが、2つ並んだパイプ椅子に身体を預けて寝ていると床からの音が響くものである。
コツコツとした足音が近づき、勢いよく扉が開かれた直後に甲高く知らない女性の声が耳を突き抜けた。
「グッモーニー、ネタを下さい!」
「...あ?」
身体の毛布をはねのけて、よたよたと立ちあがる。
目の前には両側を丸く纏めた金髪に茶色っぽい瞳、口元のほくろがある若い女性。
「......あの、どちらさまですか...?」
雑に伸びた黒髪をかきあげながら見知らぬ女性にそう問いかけた。
女性は口に両手を当て、わなわなと震えながらゆっくりと感動するように呟く。
「...寝起きは......機嫌悪い系の...主人公だ...!」
「はぁ?」
急に来て何を言うのかと思えば、何を意味の分からないことを言い出すのだろうか。
「...それで、どちらさまで...?」
「あれ...話通ってない?」
「?...いえ、何も?」
「え、嘘...君、前にポーズ決めてたし普通に知ってると思っ、て...?」
「ポーズ?...そんなのしたこと_」
言い切る前に何かの写真が顔の前に突きつけられる。
黒髪に昔と変わらない真っ直ぐな赤い瞳。少し焼けた肌が目立つ手がピースサインを作っている。
確かに俺だ。後ろに林の中にあった何かを指す柳田さんがいる。どうやら、例の林の何かから撮られたようだ。カメラでもあったのか?
「これさぁ!!君だよね!!!この、勘が鋭い男の子!!!!」
「...はい?」
俺は柳田...バイトリーダーがそちらにポーズを取れと言われたから、取っただけであって別に気づいててたわけではないし...そもそも、その盗撮していたのがこの人だったのだろうか。
やけにテンションの高い、距離感を見誤りそうな女性。今は俺の頬に右手をあて、左手で俺の腹をさすっている。知り合いではない。もう一度言う。知り合いではない!
「...あの...」
僅かにかけた言葉も無視され、頬をやけにつねられる。
微かに「もちもちだ...」と感嘆の声が聞こえた。
「もちもち...?......あの、手を離してくれません...?」
「う~ん...マシュマロ...白玉......いや、大福...?」
白玉も大福も全部ほぼ餅だろ...。
話通じないタイプの変人か、この人。
「えーっと...一護君だよね?」
「え、あぁ......まぁ、そうですけど...」
「苺君ではないよね?」
「いちご?...そりゃ|一護《いちご》ですよ?」
「甘い方の?」
「甘い...?スイーツの話ですか?」
ああ、もうダメだ。話がよく分からない。一護、一護って何をそんなに自分の名前が気になるんだ。
そもそもこの人は誰なんだ。本当に誰なんだ。
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「いった...」
痛む頭の中で、ふと、入る予定の新入りのことを思い出した。
毒操もそうではあるが、更に厄介なのが確か、一人...。
「善...柳田さん、何を思って廊下で倒れてるんですか?」
誰かを思い出そうとして、呼ばれた声に顔をあげた。
白い髪に水色の瞳が眉目秀麗な顔につき、手には二本の缶コーヒーがある。
「...翔か...」
少し不機嫌とした顔をされるが、すぐに空いている手を差し出され、手を握った。
「君さ...その顔してて、よくモテないよね...彼女は?」
「いませんよ...僕も不思議なくらいです、本当に」
真顔でそう伝える空知。彼女が出来ないのは性格ではないでしょうか。
人は顔より性格と言います。知らんけど。
「........久々に地の文を見たかもしれない...」
「ですね...僕は前に毒を貰いましたよ。柳田さん、コーヒー」
「ああ、有り難う。後でお代渡すよ」
「ありがとうございます。柳田さんってコーヒー飲みましたっけ?」
「んー...いや?単にカフェインが欲しいだけかな。翔は?」
「甘い物の方が好きですね」
「はっきり言ったね...微糖?」
「飲めば分かりますよ、開けてないし」
「あ~...いや、いいや。後で飲むでしょ?」
「...............あっ」
「君ねぇ...」
「本当に気づかなかったんですって...」
「気をつけてよ、それ狙いが一人_」
「一人?」
「_来た、はずなんだよね」
「見てないんですか?」
「見てないっていうか...そもそも_」
なげーよ。野郎共。
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「松林さん?よろしくね!」
華が笑った。そう感じた。白い長髪が揺れた。
「...あの、本当にいつまで触ってるんですか...?」
顎の下の黒髪も揺れた。もちもちとした感覚が指の腹で踊った。
「あの、何か気持ち悪いこと考えてませんか?
あと俺、苺でも、もちもちでも、黒髪でもなくて、橘一護なんですけど」
「うん、知ってる!」
「あの...」
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さて、話が進まないので2300文字を突破したことに目を背けながら三人称で進めましょう。
そもそも文章に目はありませんが。いや、目という文章は目になるのかもしれません。
目が並ぶと目になって、目は目になりますから目になります。つまり目です。
文章に目という概念はありませんし見えるかどうかは不明ですが、きっとあるんでしょう。
こんなくだらないことを書いていると2491文字になります。話を進めましょう。糖質か?
この主人公をもちもちだの黒髪だの呼びしている人物は松林葵。ええ、そうです。始めに出てくる人です。さて、本当に物語へ移りましょう。
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一護が自分の頭の上にいる松林をどかし、口を開いた。
「名前は分かりましたけど、なんなんですか。話も何も聞いてませんよ!」
「うぇ?...店長から聞いてないの?」
「聞いてません!」
一護が懸命に主張し、心寧、霊歌、毒操の盾になるように松林から離れる。
今日は出水さんはいないようです。
松林がその言葉に困ったように頭を掻いて、また口を開く。
「...じゃあ、改めて。
私は|松林《まつばやし》|葵《あおい》。今のところの職業は同人作家。ペンネームは_」
その言葉を遮るようにして空知が入室し、スマホを片手に呟いた。
「|山椎橋碧《やまついばしあお》」
そう言った途端に廊下から歓声があがり、柳田の焦るような声とともに数名の女性従業員も入室。入り口にいた空知が踏まれましたが、放っておきましょう。
その後に少しくたびれた顔の柳田が入室し、女性従業員に囲まれる松林と興味をそそられた心寧、霊歌、毒操の団体と反対に入り口付近で縮こまる男性陣に部屋の中が別れました。
「...すみません、フォローしたいんですけど物語進まないらしくて...」
一護がそう言い_おっと、間違えました。テイク2ってやつです。
「...大丈夫ですか?」
一護が心配そうに床に突っ伏した空知と入り口の塀にもたれ掛かる柳田に声をかけました。
「大丈夫だと思う...」
「あー、大丈夫、大丈夫...」
上から空知、柳田の順で言葉を返しました。続けて一護が言葉を投げます。
「山椎橋碧って松林さんのペンネーム何ですか?」
それに空知が応えました。
「ああ...簡単に言えば、何でも書く...というか好きなものの範囲の広いと有名な同人作家らしい。
ネットってのは怖いもんで、写真検索をしたらすぐに出てきたよ」
そう言ってちょっと液晶が割れたスマホの画面に松林の顔とG◯◯gle写真検索に『山椎橋碧』と名前と作品が出ています。誰かがイベントか何かで写真を撮って、あげてしまったのでしょう。
「でも、それで出てくるものなんですか?
今、空知先輩が言うまで誰も反応しなかったじゃないですか」
「そりゃあ、どこにでもあるような名前だし...皆、人の顔なんてそう覚え.........」
「...翔?」
急に途切れた空知の声に柳田が反応しました。
「.........すみません、ちょっと...」
「...ああ、行っておいで。気をつけてね」
そこに賑やかな華の声が響きました。
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ジリリリリと警報が鳴った。
惣菜部門の男性が遥とバタバタと歩きながら文句を垂れた。
「き...今日!遅くっ、ないで、すかっ?」
「そう...ですかね」
「ぜぇ...ヴぇ...走り、ながらっ...会話、すんの......ぎづ、い...」
「............ですね」
二人が走り抜ける先に何か札のようなものが貼ってあり、大量の木箱が一瞬の内に粉々になる。
男性が小さく悲鳴をあげて床に貼ってあった札に足が触れそうになった瞬間、先に靴がバラバラに砕けた。すぐに足を引っ込め、その元々、札があった場所に戦慄するばかりだった。
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鏡に映る顔を見た。
黒髪ではなく、白髪の男性。
別にコンプレックスがあるわけじゃない。
ただ、覚えていなければならない。
覚えていないと、いけない。
身体も頭もまだ動くはずだ。
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奇妙な感覚に陥った。まるで無限の爆弾のようなものに囲まれているような感覚だった。
どこでつけられたのか、リスが札を身体に貼りつけていた。
急いで取ろうと手を伸ばした2秒後、リスの四肢が爆散し、少なくも鉄の匂いが広がった。
空知は帰ってこない。柳田と松林は危険性に気づいたのか急いで避難を優先した。
他の三人は?他の、三人は...
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先に霊に札を触れさせ、処理をした。
近くの札を花を散らせながら斬った。
札を貼りつけられた逃げ惑う小動物を近づけさせないように毒を撒いた。
「...きついよ、これ」
毒を撒く奴がそう言った。
白狐の仮面の下で笑みが溢れて、毒のない場所を縫うように札を貼ろうとした。
しかし、それを遮るようにして何かが空中で札に触れて数秒経った頃に四肢が爆発するような感覚を得た。まるでそこに何かがいたようだった。
再び札をどこかに貼ろうとして、持っていた札が花と共に切り刻まれる。
不味いと感じ、札を円上に辺りに散りばめて陣をつくり、盾とした。
後ろから刀が風を切る音や奇妙な物音がして、必死になって通路に札を貼りつけ、道を塞いだ。
逃げ切れた先に黒髪にまっすぐな赤い瞳をした男。
これはいけると、持っている札を強く握った。