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Celebrate
向日葵のような子だった.彼の顔には毎日笑顔が咲き誇り,彼が笑うとこちらまで口角を緩めてしまうほど,明るく眩い子だった.
反抗期な彼とは,よく喧嘩もした.ムードメーカーでもある彼を,髪を染める,授業,学校をサボる,ピアスを開けて来るなど,度々叱る羽目になり,その度彼の納得いかない顔を見るのは屈辱だったが,今思えばそれも大事な思い出に過ぎない.
運動神経の良い子だった.〝勉強〟はよくできるわけではなかったが,〝頭〟は冴えていた.彼の発想にはよく驚かされたさ.特に,「作者の気持ちを考えましょう」という問いは彼の得意分野だった.人の気持がよくわかる.
そんな彼がモテモテだったことくらい,私の他,誰もが知っていた.悪くはない,むしろ良いルックスに,その笑顔に心が吸い込まれていまう,そう,クラスの女子が話しているのを耳にしたことがある.そんなに意識したことはなかったが,嬉しいものだった.
目を閉じれば,彼はまだ私の目の前にいるように思える.放課後の屋上で,よくジュースを(私はコーヒーを)手に,何気ない会話を楽しんだのも良い思い出だ.
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だが,花は咲けば散るもの.
美しい花を咲かせるために長い月日をかけた末,枯れるのは一瞬だ.
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そう.彼も,一瞬のうちにして,`この世を去ってしまった.`
白血病だった.しかも10代がかかると,長くは生きられない病気.苦しむ彼を,私は,隣でただ手を握ることしかできなかった.しかし驚いたことに,私がいつも同じ時間に病室の扉を開けても,彼の笑顔は絶えなかった.
学校のクラスメイトが応援してるとか,好きな漫画を買ってきてあげたりとか,彼はいつも笑顔を見せてくれた.彼のメンタル強さは人並み以上だ.
彼が入院中も,たくさんのクラスメイトが訪れ,お見舞いを残していった.それが彼の強みになったのだろうか.彼の顔色は日に日に良くなっていき,回復も近づいていた.
* * *
...と思われた2月.
彼は病室のベッドで息を引き取った.
ベッドの上には,卒業文集の原稿が書き上げられており,書き直したあとがよく見えた.その大事な原稿が,自分の涙で滲んでいくのを,私はただただ見つめていた.受け入れられない現実.思いが溢れ,こぼれていた.
* * *
そして春.彼が出るはずだった卒業式の椅子に,彼の姿はなく,代わりに写真が額縁に収められている.壁一面に紅白の弾幕が垂れ下がり,体育館は保護者で溢れかえっている.
次々と呼ばれる卒業生.彼の番も近づいて来たそのとき,私は保健教師の斎藤先生に腕を引かれた.
斎藤「上杉先生」
真剣な声だった.
斎藤「日車くんの名前,呼んであげてください.」
息が詰まった.
上杉「でも,彼の担当は私ではないですし...」
斎藤先生の顔がずいと,近づいた.怒っている.
斎藤「上杉先生,日車くんの話,聞かなかったんですか!日車くん,先生のこと**大好きだったんですよ!**」
...全く聞いていなかったわけではない.ちゃんと,今でもはっきり脳内で繰り返されている.彼と交わした,最後の言葉を.
* * *
輝く,夕方だった.衰弱しきった彼は,ゆっくり口を開いた.
日車「上杉先生,俺,先生が担任でよかったです.」
日車「先生のお陰で色々なこと知れましたし,何より,学校が楽しいと思えるようになった.」
日車「先生,俺の最後のわがまま,聞いてくれますか」
* * *
日車「*ありがとう.*」
今までの中でも1番眩しい笑顔だった.彼の目には涙が潤んでいるのも,よく見えた.
その翌日の朝,彼は亡くなった.
* * *
__<『袴田美来』__
__<『はい』__
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斎藤「ほら.先生.」
深く,深呼吸をし,私はマイクへと歩み寄った.
上杉「わかってますよ.」
* * *
上杉「|日車《ひぐるま》|夕陽《ゆうひ》」
彼の笑顔が,見えた気がした.