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第一話 誕生日
吸い込むたび、肺が凍りそうな程冷たい空気。
小さな体を一生懸命動かす。
彼は優里|《ゆうり》。ごく普通の戦災孤児である。
基地の地下。防空壕に逃げ込む。
白い息が空気に溶けていく。
「、、、」
柘榴も、柚子も、季もいない。
彼の頭に最悪の言葉が浮かぶ。
優里は膝に顔を埋める。
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「、、、兄ちゃん」
「優里兄ちゃん!」
優里は起こされて、薄めを開けた。
が、二度寝した。
「おい」
首に冷たい手が当たる。
「ぎゃっ」と言いたくなったのを、グッと抑えた。
四日間仮眠もしていない優里は寝る時間さえあれば寝ようと思っていたので寝心地の悪い、地面でもサッと寝てしまっていたのだ。
「んあ?」
「もう終わったよ。」
不機嫌そうに起き上がった優里は我に帰る。
「あ。」
あ、、しまったと優里は思った。
「なんで起こしてくれなかったんだよ。」
そう問うと、なぎさ先輩が呆れて言った。
「何回起こしたって二度寝したのはどこのどいつだ。」
「.........」
さすがに反論できなかった優里は口を噤んだ。
30XX年。東の国と西の国の戦争の真っ只中。
それは10年程前から始まっていた。
「あ"あ"くっそー給料が安くなっちまう。」
弟分のセルは自慢げに顔を輝かせる。
「大丈夫だよ!ちゃんと片付けは残しといたから!優里兄ちゃんの取り分は減らないからっ!」
げ、、一番めんどくせえのだよ。とは言えなかった。
「よっこらせっ」
優里は立ち上った。ツツジの中から顔を出し、辺りを確認した。
(...誰もいねえな。)
静かな屋敷の前を抜けていく。
じゃりじゃり
少し足音が立つ。
裏に回ると大きな窓が開いている。
そこに入ると、たくさんの人が舞台の方を向いている。
舞台にはスポットライトが当たっていた。
『皆さんお集まりいただきありがとうございます。』
スピーカーから聞こえる音で、優里は耳が潰れそうになる。
ただでさえ視覚が悪い中、耳に頼るしかない。
(くっそ聞こえねえ。)
手探りで進んでいく。
『では、今日の主役の登場ですっ!』
派手なドラムマーチで完全に音が聞こえない。
『我が国の王子。キャメル・レプロ・ハースクメル皇子殿下のご登場です!』
舞台の向かいの壁にスポットライトがあたる。
そこには大きなドアがあった。
「げっ。」
時間に間に合わなそうだ。
『?』
皇子が現れない。
(、、、そりゃそうだ。)
黒服の男達が司会に何かを伝える。
ピッカピッカに着飾った客達がざわめく。
優里は素早く広間を出、廊下を駆け抜ける。
廊下の上の点検口に入ると蓋を閉じた。
優里がは懐中電灯をくわえながら、四つん這いになって進んでいた。
(くっそ。めんどくせえ。)
「王子殿下!いらっしゃらないのですか?殿下ー!?」
ドアを激しく叩く音が聞こえる。
(早くしねえと。)
部屋に飛び降りると、窓を開けた。
横たわり、左胸のあたりに赤い液体が染み込んでる"それ"を見て、優里は哀れに思った。
金ピカの装飾をつけて着飾っても、大量の金貨と権力を持っていようとも、死んでしまったら元も子もない。
上からロープを吊るす。
"それ"の首にそっとかけると手をあわせる。
ゆかに、鋭いペーパーナイフを置いておいた。
部屋から出る際、(窓から出る)ぶら下げられた彼が見えた。
「誕生日なのに、散々だよな。」
優里はふと呟いていた。
第一話 終