公開中
雨止み
窓の外は、今日も雨が降っている。
この雨が降り始めてから五ヶ月経った。
最初の数日は誰もなんとも思わなかったが、一週間も経つと人がそれを異常だと感じ始めた。
ニュースでは異例の長さの雨と報道され、そこで俺は全世界で雨が続いていることを知った。
それから一ヶ月経っても、雨はやまなかった。
政府はなぜ降っているのかを突き止めようとしたが、研究者を集めても対策委員会を作っても何もわからなかった。
ネット上ではこの雨が神の天罰だとかノアの箱舟の予兆だとか様々な噂が飛び交っていた。
それから二ヶ月、三ヶ月と経ち、今ではこの雨は人々にとって慣れたものになってしまった。
休校が続いていた学校も再開し、駅の電車も動き始めた。
ただ、雨がずっと降り続けているだけなのだ。
まあ弊害もある。雨が降り続いているせいで屋根がすり減って屋根の交換が定期的に必要になったし、外に出る時は必ず傘がいるようになった。
雨は今も降り続いている。
ニュースは毎日海面上昇の話題ばかりになった。
日本のどこどこが沈んだとか、何人行方不明になったとか、そんなことばかりだ。
つい昨日は電車が全面停止になったらしい。
ここはちょっと山の上にあるからまだ沈んでいないだけで、明日は我が身だ。
連絡の取れない友人が増えた。もう顔も見れない家族も増えた。
たった雨一つで、こんなにも不便になる。
だが、どうすることもできない。ただ少しずつ不便になってゆく生活に不満を漏らしながら、生きていくことしか出来ない。
そうして一週間を過ごし、二週間を過ごし、一ヶ月を過ごした。
雨のせいで氾濫した川は、いつのまにか寝ている間に俺の住んでいるアパートの一階まで浸水していた。
残り1時間もなさそうな余生をどう過ごそうか悩んでいると、テレビに緊急速報が流れた。
「〇〇区〇〇町〇〇山上にお住みの方々、今すぐに山頂に集まってください。」
「あと30分でこの山は沈没します。最後の救助ヘリが山頂で待機しています。」
「とにかく早く集まってください。これが最後の警告です。」
そう言ってテレビが途切れた。
今から山頂に行けば助かるのだろうが、一階は沈没しているため外に出ることも出来ない。
終わりを待つだけだ。
だんだん、窓の向こうから見える景色が水中へと変わっていった。
ドアの隙間から水が流れ込んでくるため、水の入ってこない浴室へと俺は逃げ込んだ。
浴室についた小さな窓から俺は外を眺める。
水は瓦礫や泥で汚れていて、水族館のように魚は泳いでいない。
浴室の中で、一人考える。
後どれくらい生き延びられるのだろうか。死ぬのならばあと何分だろうか。
死因は溺死だろうか。酸欠死だろうか。死体は誰が回収するのだろうか。
そんな事が頭の中にシャボン玉みたいに出ては消えて、それを繰り返した。
いつしか考え事がしにくくなってきた。
頭に霞がかかったようだ。頭痛もしてきた。
息苦しい。目眩もしてきた。立つのが辛くなってきた。
風呂の中に座り込む。見た目だけ見れば普通に入浴している人のようだ。
そんな事を考えながら、俺はもうマトモに何も考えられない頭で目を閉じた。
外からは、ただ水の音だけが聞こえていた。