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蒼空に謳う #2
「|莉子《りこ》また告られたん?」
文化祭を前にした軽音楽部部室。軽音部の部室は第一校舎、第二校舎から遠く離れたところにある小屋のようなものだ。もとは小汚いものだったがこの部長|天野凛音《あまのりんね》が一人で改装。そうしてこのアットホームな部室ができたのである。
「は……?」
重厚な(雰囲気の)扉を開いた途端に飛び出てきた問いに|結田莉子《ゆいたりこ》は絶句した。
「んなっ、んで凛先輩知ってるんですか…?」
知られたくないものを知られてしまった。という顔の莉子にソファーに寝転んでいた|佐伯文《さえきふみ》がにやりと笑う。
「莉子ぉ、天野の情報網ナメないほうが良いと思うなぁ」
「お、覚えときます」
莉子は軽く苦笑すると棚に荷物をおいて定位置である本棚近くの椅子に腰掛ける。
と、向かいに座っていた凛音が身を乗り出して大真面目な顔で言った。
「顔面くれ」
「嫌です」
「くれぇ〜」
「その顔で言いますか」
莉子を可愛い系とするならば、凛音はかっこいい系の整った顔立ちをしている。
文は安定の王道イケメン。友人に言わせると某王子様系俳優似というか超え、らしい。
そして先程の|黛《まゆずみ》玖利主はチャラいけど|初《うぶ》!と女の子たちに好評である。
|東雲《しののめ》学園軽音楽部の全部員4名は全員整った顔立ちをしているため、『東雲の顔・軽音楽部』と呼ばれていたりもする。
なら、彼等・彼女等目当ての部員がいるのではないか?
否。
東雲学園軽音楽部は非常にまったりゆったりしている部活のようにみえて、がっつり実績を残している。
今までに何度も部員目当てで入部しようとした生徒が男女問わずたくさんいたが、練習が始まった瞬間、そのハードさ、ストイックさに逃げ出していった。
しかし練習が始まるまでは、アットホームでのんびり、ゴロゴロ、ゲラゲラという部活なのであった。