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年刻み偽星
古くながらの店舗の暖簾の先、赤い丸椅子の中に座る紺に近い青髪の男性、|梶谷《かじたに》|湊《みなと》は、油断なく目を光らせていた。
世間が年越し蕎麦をすする音で満たされる中、彼の前にも熱々の越前蕎麦が湯気を立てている。
香ばしい出汁の匂いが鼻孔をくすぐるが、彼は箸を動かせないでいた。
「蕎麦を年越しに食べる習慣…|登場人物《オリジナルキャラクター》……」
彼は呟き、自分のややごつごつとした手をじっと見つめた。
「僕は…いつから、僕に…」
記憶を辿る。
最初の記憶は、冷たい土の感触と、纏わりつく息苦しさ。誰かが彼に絵筆で目鼻を描き、魂を吹き込んだ、と思い込まされていた。
しかし、この年越し手前になっての蕎麦の香りが、彼の内面をひどく揺さぶった。
「本物の僕なら、こんなちっぽけな器の蕎麦など気にしないってこと?」
彼は自分が《《ここ》》で越前蕎麦を年越しに食べる“梶谷湊”という役割を与えられただけの単なる一つの話の偽物なのではないか、という恐怖に襲われる。
”梶谷湊“としての記憶や、感情、行動、言動に関する知識は頭の中にある。
しかし、それは誰かがインプットした知識で、自分のものではない。
彼は意を決して、つるりと一本の蕎麦を口に入れた。コシのある食感と、つゆの深い味わいが広がる。本物も偽物も関係ない、この蕎麦は確かに美味い。
「偽物だろうと、この蕎訪は美味い…と…」
彼はそう確信し、残りの蕎麦をすすり始めた。自分が何者であるかという恐怖は消えないが、とりあえず今は、この瞬間の蕎麦を味わうことが、彼にとって唯一の“本物”の行動だった。
良いお年を