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赤い腕輪と首輪
学園を管理しているはずの妖精が、騒動を起こした。学園内に想い人がいる者にのみ、その想い人がバレる、プライバシー皆無で迷惑な騒動。
誰かを想う者には赤い腕輪を、誰かに想われる者には赤い首輪を、妖精のイタズラでそれぞれ付けられている。そして想う者と想われる者でペアになった腕輪と首輪の間には、これまた赤い鎖でつながれている。
デュースに付いている腕輪も、エースに付いている首輪も、一部のクラスメイトたちと同じく教室の外に続いている鎖も、見えるのに触れられない。赤いそれらを手で外そうとしても、スカスカと空を切る。伸び縮みが自由自在な鎖は、対象者が逃げても、切れずに追いかける。
外すことをあきらめたエースは肩をすくめる。
「こりゃダメだな。先生たちが解決してくれるのを待とうぜ」
「そのほうがいいな」
うなずいたデュースの腕輪の鎖の先にいる人物を、エースもクラスメイトたちも知っている。どうせ相手は全生徒公認のカップルの片割れだ。
それでも確かめに行ったデバガメは一定数いる。デュースの鎖をたどったクラスメイトが、隣の教室から帰ってきて早々、「ジャックとつながってたぞ!」とわざわざ報告してきた。
デュースは問いかける。
「どうつながってたんだ? 僕たちは両想いなんだが」
「ジャックも腕輪だったから、腕と腕でつながってるってことだな」
そう答えたクラスメイトに、エースが補足する。
「どっちも想ってる側だから、どっちも腕輪になるわな、そりゃ」
デュースは「なるほど」と納得した。
クラスメイトはエースの首輪を見て、ニヤニヤと笑う。
「エースに片想い中のやつって誰なんだろうな? 本当に心当たりないのかよ」
エースはうんざりとしながら答える。
「ないっつってんだろ」
「知りたくならねえ?」
「パンドラの箱なんか開けたくないね」
エースは異性愛者だ。男子校に属する者である男に想われているなど、知りたくもない。
知らなければ、存在しないのと同じだ。
なのにデュースは現実をつきつける。
「でも確かめに行かれてるぞ」
「うげえ〜〜」
すでに数人のクラスメイトがエースの首輪の先をたどり、エースを想う者を突き止めようとしているのだ。
探られていい気はしない。もちろんエースは抵抗した。だが多勢に無勢。あえなく教室の外に飛び出されたのである。
隣の教室から帰ってきたクラスメイトよりも遅いから、遠くの教室まで行っているようだ。
「アイツら帰ってきたらとっちめてやる!」
しかし十分経っても、まだ帰ってこなかった。ちなみにデュースの想い人を確かめたクラスメイトはすでにエースたちから離れて、新たな標的をからかっていた。
エースは教室の扉を見ながらぼやく。
「アイツらどこまで行ってるんだ? いくら校舎が広いからって、こんなに時間かからないだろ」
「飽きて他のやつに行ってるんじゃないか」
代わりにデュースが答えた。
「だといいけど」
エースがため息をついた瞬間、扉が勢いよく開いた。
クラスメイトたちが帰ってきたかと思いきや、入ってきたのはディアソムニア寮生の三年生たちだった。エースの鎖を見て、たどり着いた先であるエースを凝視している。
一人が恐る恐るつぶやく。
「お……お前が……?」
「はい?」
馴染みのない先輩たちに尻込みしながらも、エースはあいづちを打った。
それをきっかけに、三年生たちは一斉に叫ぶ。
「なんでこんな人間が!?」
「何かの間違いだろ!」
「たとえイタズラでも、不敬だ! 件の妖精には罰を与えないと!」
次々に叫ぶ三年生たちの後ろには、エースの鎖をたどっていったクラスメイトたちが申し訳なさそうにエースたちを見ていた。おそらくこの三年生たちに捕まって、帰りが遅くなってしまったのだろう。
三年生たちからエースをぶじょくしている雰囲気を感じ取ったデュースは眉をひそめる。
「何か僕たちに用ですか、先輩方」
一人の三年生が答える前に、セベクがエースたちの前に飛び出た。エースに指を突きつける。
「なぜ若様の腕輪が、お前の首輪につながっているんだ!?」
パンドラの箱は開かれた。
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後日。一組のカップルが爆誕した。
一方で、騒動の犯人である妖精が、困り顔のクロウリーとリリアの前で証言する。
「マレウス様ったら、なかなか告白なさらないんですもの。進展できるきっかけを作ってさしあげただけよ」