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2-4 今まで
「隼、人?」
彼の瞳が少し揺らいだような気がした。
どうしよう、なんて言えば、そう考えていると、後ろからガチャという音が聞こえた。
「紗絢ごめん!あの…」
桔梗が飛び出してきた。
「…えっと、幼馴染さん?私、お邪魔…」
と桔梗がそーっと扉を閉じようとする。
「あ、いや、えーと、その…」
なんて返すのがいいのだろう。隼人に迷惑がかからない返し…とひたすら考えていると、
「うち来る?」
と、懐かしい言葉を聞いた。十年経って、少し低くなった隼人の声で。
「行く」
即答した。
「桔梗…その、色々ありがとう。今度、ちゃんと連絡する」
そう言うと、桔梗は分かったと頷き、隼人にペコリと礼をして部屋へと入っていった。
「どうぞ」
「…お邪魔します」
ガチャリとドアノブを回し、開かれる。
先に部屋に入った隼人が玄関の電気をぱちりとつけ、まだ、玄関にすら入っていない私を見る。
「入らないの?」
「…入る」
深呼吸を一つして、靴を脱ぎ、一歩踏み出す。
はじめの一歩さえ踏み出してしまえば、サクサクと足が進む。
私がウダウダしている間に隼人はカバンを置き、手を洗い、スーツのジャケットをハンガーに掛け、エアコンのスイッチをオンにして、ガラスのコップ二つに麦茶を注いでいた。
「氷入れる?」
「ううん、大丈夫」
そう言うと、自分のコップにだけ氷を入れた隼人が小さなテーブルにコップを二つ置き、あぐらをかいて座る。
麦茶がそこに置かれていたので、私は隼人のむかいに座る。
最初に何と言えばいいのかわからず、とりあえず麦茶を飲むことにした。エアコンをつけたばかりの部屋では、さっきまで冷蔵庫に入っていたことを忘れてしまうほど、麦茶はぬるくなっていた。氷を貰っておけば良かったな、と少し後悔をしていたところ、静かな部屋に音が戻った。
「久し、ぶり」
「久しぶり。元気だった?」
「…紗絢は?」
「まぁ、それなりには」
「そっか、良かった」
「一回だけ、すっごい凹んだことあったけどね」
「え、なんで?」
「えっとね、施設行ってから、私一回団地行ったの。だけど、その時隼人引っ越しちゃってたから」
「…来てくれてたんだ」
「うん。ずっとお礼伝えたかったし」
そう言うと、彼の目が少し開いた。
「な、んで?お礼することなんて無かったのに。なんなら、僕が謝らないと」
次は私が驚く番だった。なんでそんな事を言うのか意味が分からない。
「こっちもなんで?だよ。謝ってもらうことなんて何もないのに」
そう聞くと、隼人はポツリポツリと話し始めた。
「最後の日、僕、警察に電話した。ごめん」
「えっと…隼人が連絡したのは本当はスパイで私は今も見張られてる…みたいなこと?そうじゃなかったら感謝しかないんだけど」
「僕はいつでも紗絢の味方って言ったのに、あの日真樹さんが怖かった。本気で紗絢死ぬかも、って思った。だけど、動けなかった」
だから、警察に電話した。という隼人の言葉にやっと、意図が見えてくる。
隼人にとっての味方、は身を挺して守るスーパーヒーローと同じ意味だったのだ、と。
「隼人が悪いこと一個もないよ。きっと、隼人がした電話する、っていう選択、間違ってないよ。隼人が連絡してくれたから、私が今生きてる、って言っても過言ではないし。あの時のお母さんは、子供二人ぽっちじゃ相手にならなかったよ」
あれはほぼ人生にとってのラスボスだもん、と笑ってみせる。
すると隼人は、少し肩の荷が下りたのか、一切手を付けていなかった麦茶を一気飲みする。
その瞬間、ピンも張っていた緊張の糸が切れ、私も足を崩した。
「そんなの気にしてくれてたの?大丈夫なのに」
「だって僕、その後すぐ引っ越しちゃったし」
そう聞かれ、ずっと気になっていたことを聞くことにした。
「ずっと気になってたんだけどさ、お父さんと綾乃さん、結婚したの?」
「え、」という隼人の声が漏れた。
「…いつから知ってたの?」
「さっき1回団地行ったって言ってたでしょ?その時おばさんが言ってた。2人が浮気してて、お母さんがああなった、って。で、二人で消えたってことは結婚したのかなぁって」
「…そっか。そうだよ、結婚した。真樹さんとの離婚が成立して、すぐ。それから3人で暮らしてた」
「え?地獄じゃない?」
「地獄だよ」
そこから二人で会っていなかった十年間の話をした。隼人は、綾乃さんとお父さんと高校卒業まで一緒に暮らしていたけれど、大学入学を期にこっちへ戻ってきたらしい。どうやら大学の先輩だということも分かった。
「あ、もう11時」
ここまで早く時間が過ぎたのは何時ぶりだろうか、あっという間に2時間ほど経ってしまった。
「そろそろ帰る?」
隼人が立ち上がり、私のカバンを渡してくれる。そんなことをされると、少し怖くなる。
「…また会える?」
また消えてしまうんではないか、と。
「また会ってくれるの?」
「うん。会いたい」
連絡先交換しよ?と聞いてみると、思いのほかすんなりスマホを取り出し、メッセージアプリを開いてくれた。
QRコードを読み込むと、「早瀬隼人」と初期設定のままのアイコンが表示される。
「おやすみ」のスタンプを送ると、隼人も「おやすみ」と返してくれた。スタンプをあまり使わないのか、文字で。たった4文字が嬉しくて仕方がなかった。
玄関で靴を履き、もう出ようとすると、
「暗いけど大丈夫?送っていこうか」
と隼人からのまさかの申し出が。
「それってさ、夜危ないから?」
「うん、そうだよ」
それ以外何の理由があるんだと言うばかりに返す隼人。
「だったらもう、大丈夫だよ。もう小学生じゃないし、夏だし。冬になったら送ってよ」
「…そっか、わかった」
おやすみ、と告げ、階段をカッカッと降りていく。夜中だからか音がよく響く。一人であることを際立たせるさせるように。
桔梗、ごめん。この前の言葉撤回する。帰り道、送るよって言ってくれるの、いいね。
全然書けてない…。
これ書いてるの、投稿された前日でございます。
別に忙しいわけでもなく、Aぇ!groupの見すぎなんですけど。
来週もし上がってなくても、人生楽しんでると思っといてください。笑