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雨だ。
軒下で雨宿りをしていた。
ある日のバイト終わり、店から少し歩いた所で天気が怪しくなってきた。
ゴロゴロと鳴る空模様。
伊達は今日、傘を持っていない。
一分もたたないうちに土砂降りになった。
大粒の雨が地面に叩きつけられる様をしばらく見ていた数分前。なぜか今、バイト先の先輩である明石と並んで相合傘。
「何この状況…」
できるなら俺以外で見たいシチュエーション…。いや、そんな"相合傘"という感じでは全くないけれど。
「何だ?」
「いいえ、何も…!」
雨音が大きくて、案外声を張り上げなければよく聞こえない。明石が差す傘の下、時折鳴る落雷の音に目を細めながら伊達はこうなる前のやりとりを少しだけ思い出す。
+ +
「――こんな所で何をしているんだ、伊達氏。雨宿りか?」
伊達より遅れて店を出たのであろろう明石に通りすぎざまに気づかれた伊達は瞬時に流れを察知する。
「あ、いえ…気にせず行って下さい」
どうぞ自分など相手に気にしないで通り過ぎてくださいという気持ちを込め先へ進むよう、やんわり促した。しかし相手は明石だ。
「そうか、しかしあれだな、昨今の雨には参ったものだ。如何せん急だからな、天気予報も当てにならん」
云いながら何故かこちらにやって来る。戸惑う伊達などお構い無しに。
「…何で…、帰らないんですか…」
雨粒を振り落とし傘をたたむ明石は伊達の横に並んで同じ様に正面を向いた。
「愚問だな。雨の日に目の前で小さな猫なしい犬が独り鳴いていたら、伊達氏、君はどうする?そのまま通り過ぎていくか?足を止めるか、どっちだ」
どういう意味だ…おれは人であって猫でも犬でもない…
「…わかりません。今のとこ遭遇したことないんで」
冷えた自分の言い草に、何だか笑えた。胸の奥がくさくさする。先輩の脈絡の無さはいつもの事なのに。
足元近く、誰かの手によって植えられた花が薄暗さの中浮かび上がってくる。鉢に佇む草花はどこか凛としているようにも見えた。大量の雨水がゴボゴボと配管から流れ出る音に伊達は街灯の下、強さが増すばかりの、雨に打たれる道路に眼をやった。激しく波打つ水面は、まるで海面を飛び跳ねる小魚の群れが辺り一面に居るかのようで黒く光る夜の海を眺めているみたいに思えた。
「そう言われれば、俺も無い。よくある子猫を拾う攻めの描写にずぶ濡れになって帰ってきて、そこから猫との共同生活を経て、しばらくした後、受けと出会い共に猫を愛でていくことになるんだが…」
「センパイ、…帰らないんですか?」
「帰るとも。どうだ、途中まで一緒に」
「…遠慮します」
「なぜだ?やはり誰か迎えを待っているのか?では俺もここで雨宿りしよう」
なんでそうなるんですか、という言葉を飲み込む。
一人であれば気長に雨が止むのを様子見できるが、付き合わせるのも何か違うよな…
伊達は考える。ここで雨宿りするよりも、途中まで入れてもらい、何処かで傘を調達すればいいのでは?少し歩けばコンビニもある。
「あの、センパイ…途中まで、コンビニまで一緒に行ってくれませんか?」
その瞬間、ずっと鳴り響いていた雷がまた何処かに落ちる轟音がした。