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「金曜日病ウイルス」
内容は次の通りだ このメッセージをご覧になっている方へお話があります。先日の電話についてお答えしたいと思います。私の父は生前とても変わった人物として知られていましたが、それはある意味正しいのです。なぜならば父の作った「金曜日病ウイルス」によって殺されたからなんですから。私はずっとそれが父の仕業だと思い込んできましたし警察もそれを信じていました。そして今日ついに犯人を特定したというわけです。もうわかっているかもしれませんけれど私はあなたのクラスメイトである笹谷亜希ではありません。あれは父の秘書を務めていた女性の端末の中身を書き出しただけなのです。秘書の名前は笹谷咲夜といいます。彼女の連絡先は知りませんでしたので直接会いに行く必要がありましたがようやく居場所を突き止めることができました。
さてこれからどうなるでしょうか。私が犯人だということに気づいた父がどういう行動を取るか非常に興味深いですね。でもおそらく無駄に終わることでしょう。父はもう死んでいますので、すでに死んでいる人間を止めることはできません。さようなら。
「……あれ、なんだそりゃ」
こんなメッセージが入っていた。
『昨日の朝、田中さんからメッセージがきました。今日一日お願い、できるだけ早く帰って欲しい。どうしても帰りたい人たちのために早く家へと帰りたい。どうやら父は自分の居場所を見つけ出すためにウイルスを作り出していたようです。もちろんそんなウイルスなんて簡単には作れやしません。でもこのメッセージを見て私はその可能性を確信しました。今から彼女のもとへ向かわせて下さい』
どうやらこのメッセージを読んでいる間は母がここにいないようだが、それは本人が誰かに聞かれたくないのかもしれない。
「なんだろうこれっていうか私はなんでこんなこと送ってるんだろう……」
気になってメッセージをクリックした。すると今度はメッセージと同じ文面で、
『本当にごめん!!本当にごめん、私から連絡が遅れて。ごめんなさい、本当にごめんね。……もしもし』
という表示が出てきた。
「なんじゃらほーん……」
「お疲れ様、あれ」
そういえば母が言っていたのだが、母が亡くなってからずっと連絡が途絶えている。それを聞いて少し安心する。今ならきっと母を呼んでくれると思った。それに父からの連絡で帰ってこなくても母に心配したってもらえるからだ。母とふたりで話したい。でもどうしていいのかわからない。……こんな私であるが家に帰ったらきっと母は怒るだろう。だからそんな言葉が頭に浮かんだ。そんなことは私は絶対に嫌だ。どう考えてもあいつは自分の居場所を見いだしてくるだろうし。それなのにどうして私は母の居場所を見いださなかったんだろうな。あいつがどんどん来なくなるじゃねぇか。なんで自分が来てないって思わされねぇんだ。
「……とりあえず家に帰って寝よう」
と思ってベッドに入ろうとしたとき、ふとメッセージが入った。
【明日も学校だから寝たら連絡して。明日も学校だから寝よう】と。
ん? 明日は学校? 私は思わずメッセージに既読を付けた。
【明日は休みだけど大丈夫?】
【大丈夫大丈夫。ちょっと行ってくるだけだから】
【わかった。じゃあおやすみ】
寝ぼけた頭の中を駆け巡るメッセージを見ながら私は思わずメッセージの送り主の文面を読み直した。
【明日も休み。学校休んでいいから】
【わかった。じゃあえっと、おやすみ】
母さんごめん。私はスマホを枕元に置きメッセンジャーを外した。でもまさかこれが最後の会話になるとは思わなかった。金曜病ウイルスが
、金曜日にしか活動しなかったことが唯一の救いだったと思う 五月二十四日 0時00分
(木曜日 深夜)
5 田中さんの家のインターホンが鳴り、私はモニターを確認した。すると、
「笹谷さん!?」「田中さん!!」
彼女は急いで出てきたようで肩が大きく上下している。「田中さ~ん!」と言って抱きつかれた私はそのまま玄関先で倒れこんでしまった。「いったい何があったんですか!一体どうして今まで連絡してくれなかったんですか、どれだけ待ったと思っているんですか、本当に田中さんじゃないんですか、本当にあのメッセージの通りの人が?」「はい、そうです」
彼女の腕の力が強まり私への抱擁はさらに強まったように感じた。彼女の顔が胸に押し付けられる。そして彼女が口を開いた。
「やっとあなたに会えた……。良かった、田中花子さん、生きていて本当によかった……」
彼女の吐息の温かさを感じながら、その声の響きを聴いて、そしてその胸に頬を押し付けられながらも、
「……っぐ」
私の目からは大粒の涙が流れた。
6 笹谷さんの身体を引き離すと彼女の手を取り二階にある私の部屋まで引っ張っていった。「ここに座ってください」と彼女に座るように促すものの、まるで自分の場所だと言わんばかりに笹谷さんは床の上に正座をした。その姿を見た私は笑ってしまった。そして、 笹谷さんを抱きしめてあげたくなったので私も同じように床に正座をして、彼女を強く抱いた。……どのくらいの間こうしていただろう、しばらくそうしたあと、私達は互いの顔を見て少しだけ笑いあった。そこで笹谷さんは急にはっとして、自分のスマホを手に取ってメッセージを確認する。
メッセージアプリは昨日の夜から動いていなかった。そのメッセージは送信者のところに見慣れぬ文字が表示されていたが、無視した。しかし、これが、後悔先に立たずになろうとは、まさか金曜病ウイルスの犯人とつながりができているなんて思ってもみなかったことだ。「このアカウントの人と知り合いですか? メッセージが来たので一応確認のために……」という彼女からの質問に対して「いいえ」と答えた私は、今度こそメッセージを削除しようと思った。削除ボタンを押そうとするとその画面を見て、笹谷さんが、「あぁーこれですね、この前送られてきたんです。私が家に帰ることをお願いするために」と言ってきた。私は「なんのことかわかりませんけど消させて頂きますね」と言ったのだが、彼女はそれを遮ってこういった。
「私達でこの人の願いを叶えませんか?」と。
私はそれについて少し考えた後でこう返事した。
「でももういいですよ、私達が頑張らなくても」と。するとそれに対して返ってきたのは 【わかった。じゃあ明日も連絡よろしくね】
という言葉だった。私はその文章をもう一度よく読んでみるとそこには『母に』と書かれていた。私はその瞬間何かがひらめいて、笹谷さんの顔を見る。「どうしたんですか?……笹谷さん」
そう言った直後、笹谷さんのスマホに電話が掛かってくる。
「……もしもし、……はい、今家に来ています、……わかりました。それでは明日また」
7 次の日の晩、私は学校帰りに駅前の花屋によってバラとカスミソウを買った。店員さんは今日が母の日であることに気づいているらしく笑顔で迎えてくれた。