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箱入り姫と6人の騎士 ⑥
赤都 乃愛羽
疼(うず)く鼓動〜
「……ん、……っ」
白い天井。鼻をつく消毒液の匂い。
数週間の長い眠りから、ちぐはようやく瞳を開けた。
「ちぐ! 気がついたのか!?」
真っ先に駆け寄ったのは、目の下に隈を作ったななもり。だった。続いて莉犬、ころん、さとみ、ジェルが、壊れ物を扱うような手つきで私の周りを囲む。
「よかった……本当に、よかった……」
莉犬が私の手を握りしめ、ボロボロと涙をこぼす。
でも、私は不思議だった。
あんなに苦しかった胸の痛みが、嘘のように消えている。それどころか、今まで感じたことのないほど、力強く、激しい鼓動が胸の奥で刻まれているのだ。
「……あの、るぅとくんは……?」
私が弱々しく尋ねた瞬間、5人の動きがピタリと止まった。
一瞬の沈黙。彼らは互いに顔を見合わせ、何かを隠すように視線を逸らす。
「るぅとは……今、ちょっと遠くに行ってるんだ。ちぐを助けるために、頑張ってくれたから」
ジェルが無理に作った笑顔で、私の頭を撫でた。
その時だった。
(トクンッ!!)
私の胸の奥で、心臓が跳ねるように大きく脈打った。
それは、るぅとくんの名前を出した瞬間に反応したかのような、奇妙な熱を帯びていた。
(……なに、これ……?)
それから数日。退院に向けてリハビリが始まったけれど、私の体には「私じゃない何か」が混ざっている感覚が消えない。
例えば、黄色い花を見た時。
私の意志とは無関係に、胸が締め付けられるほど苦しくなる。
例えば、夜、一人で眠ろうとする時。
耳の奥で、聞き覚えのある優しい声が「ちぐちゃん」と囁く気がして、飛び起きる。
「……るぅとくん……なの?」
自分の左胸にそっと手を当てる。
そこにある鼓動は、私の知っている「弱い私の心臓」のリズムじゃない。
もっと独占欲が強くて、私を縛り付けるような、激しく甘いリズム。
「ちぐ、どうしたの? また胸が痛む?」
さとみが背後から抱き寄せ、私の胸元に耳を当てる。
「……落ち着けよ。あいつは、ちゃんとここで生きてるから」
さとみの言葉に、私はゾクりと背筋が凍った。
恋愛音痴な私でも、流石に気づき始めていた。
私の命を繋いでいるのは、単なる「臓器」じゃない。
私を愛し、私を永遠に手放さないと決めた、るぅとくんの執念そのものなのだと。
「……逃げられない、んだ」
私がそう呟いた瞬間、胸の鼓動は満足げに、トクン、と一度高く跳ねた。