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弱き者は
ミニ設定
この世界の通貨はセルとフェーディ。1セル=100フェーディ。
1セルが約50円、1フェーディが約0.5円です。
10万セルは約500万円です。
だいぶ頭が軽くなった。
「いつか、代は返す」
「いいですよ、私は貴方の夢を叶えるためだったら、いくらでも出します」
「……そんなこと言って、限度ってもんがあるだろ」
「そうですね。10万セルなどと言われたら、さすがに無理です」
笑って、ライアンは言った。
「武器や防具でもそんなに必要ではないだろう?」
「はい、でも貴方の没後に少々物価が上がったのです。あの床屋も、ぎりぎりを攻めた安いところなんです」
「そうか。今、どんなものなんだ」
「林檎が1つ、6セルと少しですかね」
「うわっ。高くなったな」
俺はつい顔をしかめた。
4時をまわっただろうか。ライアンの小屋のある森に差し掛かった。
「……ふぅ」
近くの丸太に座り込んでしまった。
「疲れましたか?」
「あぁ……やはり鍛えていた身体とは違うな」
そう言いながら、己のものとなった細い足を見つめた。
あと少しだろ、だから頑張れ。
少しずつ自分を鼓舞し、立ち上がった。
「もう、よろしいのですか」
「小屋まであと少しだろう?大丈夫だ」
「……無理はしないで下さいね」
「いや……」
言いかけて、やめた。
無理にやっても何にもならない。
それは、俺が1番分かってることなのだから。
「……やはり休憩させてくれ」
そして、丸太に再度座り、――そして、眠ってしまった。
前世の俺の、幼い頃の夢を見た。
幼少期から、前世の俺は剣士だった父に剣術を叩きこまれてきた。
俺と比べれば少々体力のない弟と常に比較され続けてきたのだ。
お前は弟と違って才能があるのだから、練習を怠るな。
常に、そう言われていた。
13になる頃には国で1番の剣士と互角に渡り合えるようになっていた。
対して、当時10歳だった弟は――狂った。
俺の相棒だった剣を、細い腕で岩に叩き続けていた。
そんなことすると刃が駄目になるなんて、剣士の息子が分からないはずがない。
俺は、零れるように弟の名前を口にした。
ライト……止めろ。
弟は、その腕を止め、静かに俺を見た。
「さっき、ルナ姉様の裁縫針も折ってきた」
弟はそう言った。もう目は死んでいた。
「ルナ姉様は針と糸が、シャドー兄様はこの剣がなきゃ、僕と同じ役立たず。でしょ?」
俺は、その言葉に、心臓も魂も掴んで抜き取られたような感覚を覚えた。
「……剣、研ぎなおしてもらうまでは、役立たずでいて。お願い」
そう言って、弟はその場を離れた。
その後、弟は行方知らずになった。
その細い腕で何ができる。
今まで鍛えてもいないのに、魔王を倒すなど馬鹿言うんじゃあない。
父は、弟にそう言って育てた。
その言葉は、今……ヘレン・レザリカの身体を縛っていた。
雨が、地平いちめんを濡らしていた。
目の前に弟がいた。あの人同じ目で、俺を見た。
「兄様も……これでずっと役立たずだね」
弟が笑顔で、濡れて傷だらけの俺に言った。
久しぶりに書いたら思いの外楽しいです。