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第7話 拉致
「見つけたでございますわ!」
声が聞こえた方を見上げると、遥か上ーーその辺の木の上から飛び降りたのだろうーーから俺の頭にめがけて赤い髪のゴスロリ調の服を着た少女が降ってきた。
「…は?」
俺は…言うまでもないとは思うが、皁崎黄河だ。城の周辺の見回りをしていたところ、今に至る。
赤髪…あのあかりとかいう奴か?…いや、あいつはこんな変な話し方はしない。
「私、かつて…10年ほど前の事件の犯人として見られている皁崎黄河を探しているのですわ。しかし…」
彼女が、手に持っている俺の小学校時代の写真と俺を見比べる。…いや、なぜ持っている?同級生にこんな奴がいた記憶は無いが…。
「…貴方、結構似ているのですわ」
そりゃそうだ。だが、こいつが見かけによらず警察などだった場合が一番困る。
「…俺は|白海大河《しらみたいが》だ。皁崎などという人間は知らない」
白海__よく使う偽名だ。偽名を使って、変装までしなければもう人間界をまともに歩くことすら出来ないからな…。
「…彼がよく使う偽名にそのような名前があったはずでございますわ」
…それもなぜ知っている?
「…ともかく俺はそんな奴は知らない。…それじゃ」
さっさと嘘を見破られる前に此処を退散しよう。そう思い、背を向けた時だった。
俺の体に赤い縄のようなものが巻き付く。
「…!?」
「逃がさないのでございますわ」
笑みを浮かべる赤髪の彼女の右の小指から赤い縄が…いや、小指が髪色と同じような真紅の縄に変形している。
「だから俺は違…」
「あーもう黙りやがれなのですわ…。”口を閉じなさい”」
そう言った途端、口が動かなくなる。…幻術か?…幻術なら昔よく弟にかけられたから、解呪方法ならわかる。なんでかけられたのやら…確か「俺のことをもっともーっと大好きになりますように」とか言っていたか…?
一瞬で口が自由になる。相手は、まだ俺が術にかかっていると信じているらしい。
「効いた様でございますわ……なら次は…”盲目になりなさい”」
一瞬目が見えなくなったが、難なくすぐに視力は回復した。
視力が戻って最初に見たのは、彼女の満足げな顔だった。術は何一つ上手くいってないが…。
「じゃ、行きましょうなのですわ」
そう言って彼女は俺の頭を掴み、ずるずると海辺の方へ引き摺り始めた。…扱い、雑すぎないか?人間だったら血塗れになるぞ、多分。
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最低限の配慮か、歩く(引き摺られる)道は柔らかい場所を選んでくれた。その後、俺は木の小舟に乗せられ、大洋へと向かい始めた。…拉致だな。船に乗せられてから数十分後、俺は人間界の古い一戸建ての一室で、3人の少年少女に囲まれていた。
「ガラシャさん、この方が本当に黄河さんなのですか…?」
「えぇ、そうでございますわ。離島から引き摺って来たでございますわ」
「ひ、引き摺るだなんて…あの…大丈夫ですか?お怪我は…?」
「え、あ、あぁ…大丈夫だが…」
緑の髪の少女が不安そうな目でこちらを見る。こいつはまだまともそうだが…。
「あ、うち海崎って言います…。よろしくお願いします…。あ、先ほどはガラシャがすみませんでした…!」
そう言ってイーチャと名乗った少女が深く頭を下げる。ガラシャと呼ばれた、俺を引き摺ったやつが向こうを向く。
「えぇっと…それで、この方は…」
青髪の男子が、自分のことを指されたのかと笑う。冷たそうな見た目とは反対に、優しいやつだった。
「あぁ、すんません!まだ自己紹介してなかったわ!俺ゴウ!よろしゅーな!」
独特なイントネーション。関西弁とかというものだろうか。
「で、あんたは…」
…そうか、まだ偽名しか名乗っていなかったな。
「…皁崎黄河。…よろしく」
俺がそう言った途端、3人の目が、目に見えて輝く。
「え、本当に、本当の方なんですか!?」
「うわぁ、すごいわぁー!10年ぐらい前のやつしか写メ持ってへんかったもんなぁ!」
中でも一番食いついてきたやつは…ガラシャだった。
「本物なのです!?あの、えぇと…先ほどはごめんなさいですわ……で、その…サインくださいですわっ!」
後半、声が裏返っていた。言い終わると、どこからか分厚い、サイン用の色紙を出してきた。ペンと一緒にそれを俺に方に向けて差し出してくる。嫌々、それでも出来るだけ丁寧に名前を書きながら、俺は内心困惑していた。
「だが…俺はただの人殺しだ…。なぜお前らは俺のことをここまで尊敬する?」
彼、彼女らは顔を見合わせる。…最初に話し出したのはイーチャだった。
「私たちも、純粋、とまではいきませんが…スライム族の血を体の中に持っているんです…。だから…、同じ種族として…やっぱり強いお方なので…私を含むみんな、あなたに憧れているんです…」
「なっ……。………」
自分の顔が赤くなる。目が正面から逸れる。褒められることは、昔から苦手だ。
「強さの秘訣、とか、何か…あるんですか?」
純粋な質問。
「…俺にはまだ上がいる。それゆえ秘訣などというものもまだ存在しない」
「はぇー…。でも、あんたもじゅーぶん強いと思うで?」
二人に質問されている間、ガラシャはずっと、俺が名前を書いた色紙を抱きしめていた。
「…で、そろそろ解放してくれないか?弟が…」
「え、弟さんいるんですか!??」
しまった。これは世間に公開したら流石にまずい情報だ。
…先ほど見えた家の全貌…、ここは確か一階建てか。なら…。
俺は拳を振り上げながら、軽く跳ぶ。古い家屋であるため、天井には一発で大きな穴が空いた。その勢いで天井を突き抜け、地面に着地し、家路を急ぐ。穴越しに最後に見えた3人の瞳は、驚愕と憧憬に満ちていた。
一方その頃の睦月とはーちゃん…
「お兄ちゃぁぁん!!うわぁぁん!!」
「もー、落ち着いてよー、睦月くんー。黄河くんならすぐ帰ると思うから…」
「…へくちっ」
「…くしゃみ?窓閉めよっか?」