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    『#姫配信中』
    
    
        今日のお題
『ポンコツ』『姫君』『生配信』
    
    
     ――姫君が、生配信を始める日が来るなんて誰が想像しただろう。
 「こ、こほん……えっと……みなみなさま、こんば……こんばん……ばんごはん? 違う! こんばんは! です!」
 震える声でカメラに向かって笑顔を作るのは、アルメリア王国の第一王女、リリィ=フォン=アルメリア。金糸のような髪、紅玉の瞳。見た目だけなら誰が見ても“完璧なお姫様”だ。
 だが、中身は……。
 「コメントが……コメントが流れてます! えっと……『草』『噛みすぎw』『ばんごはんww』……っ、くっ、なぜ笑うのです!? 姫は真剣なのですよ!」
 彼女は“ポンコツ”だった。いや、正確には、完璧を求められすぎて、努力しすぎて、空回りしまくるタイプのポンコツ。
 それでも国のために、父王の命令で始めたのだ。
 「生配信で国を救え」――そんな無茶ぶりを。
 ◆
 数日前、王宮の執務室。
 「いいかリリィ。王国は財政難だ。だが幸い、そなたには“顔”がある」
 「かお……?」
 「そう、顔と、少々の知名度だ。最近は何でも“インターネット”とやらで稼げるらしい。そなたが配信をすれば、世界中からスーパーチャットが飛んでくると家臣が申しておる」
 「しゅーぱー……ちゃっと……?」
 「よいな? 姫君として、国を救うのだ!」
 こうしてリリィは、見知らぬ魔導機器――“カメラ”と“マイク”を前に、たった一人で戦うことになったのだ。
 ◆
 「えっと、つぎは……この、“ゲーム”とやらを遊ぶのですね?」
 コメント欄が一斉に湧く。
 『初見でエルデンリング!?w』『無理だろww』『姫、やめとけw』
 「な、なぜ笑うのです!? 姫はやります! 国のためですから!」
 リリィは勇ましくコントローラーを握った。だが開始十秒――。
 「えっ!? し、死にました!? まだ、なにも……!?」
 『草』『開始5秒でデスw』『ポンコツ姫爆誕w』
 配信は地獄だった。言葉を噛み、ボタンを押せば間違い、やっと敵を倒したと思えば崖から落下。
 ――けれど、奇妙なことが起きた。
 『かわいいw』『もっと噛めw』『守りたい、この姫』
 視聴者が増えていくのだ。最初は十人、百人、千人……。
 気づけば、同接は一万人を超えていた。
 「えっ!? な、なぜ……なぜ皆さま笑っておられるのです!?」
 コメントは止まらない。
 『姫、ポンコツすぎwww』『でも真剣なの草』『姫の必死さに課金するわ』
 チャリーン。
 画面に光る金色の文字――“¥50,000 スーパーチャット”。
 「こ、これ、本当にいただいても……!?」
 リリィは震えた。
 「ありがとうございます! 姫、必ず国を救います! ……でも、また死にました!」
 『wwwww』
 ――その夜、アルメリア王国の財務官は驚愕した。
 「一晩で、国の税収一か月分を稼ぎました……!」
 ◆
 配信は続いた。料理配信では厨房を炎上させ、水泳配信ではカメラを湖に沈め、歌配信では音痴すぎて逆にバズった。
 世界は、ポンコツ姫リリィに夢中になったのだ。
 「姫ー!」「今日も推し活!」「姫しか勝たん!」
 フォロワー数は王国の人口を超え、ついには他国の王までもが**「姫のメン限に入りたい」**と発言する始末。
 そんなある日、敵国の宣戦布告が届いた。
 「アルメリアをよこせ。我が軍は十万の兵を率いている」
 絶体絶命――だが、その時リリィは立ち上がった。
 「皆さま! 緊急配信です! 今から……戦争をします!!」
 コメント欄が爆発する。
 『!?』『姫、戦争配信!?』『課金するわ!!』
 結果は――言うまでもない。
 世界中の課金で雇った傭兵軍、そして視聴者のドローンと魔導兵器の差し入れにより、敵軍は瞬く間に降伏。
 歴史はこう記す。
 **「世界初の“生配信で勝った戦争”」**と。
 ◆
 今夜も、姫はカメラの前に座る。
 「皆さま、こんばんは! リリィです! 今日は――国を救ってくださった皆さまに、お礼を申し上げます!」
 コメントが画面いっぱいに溢れる。
 『姫ー!』『結婚して!』『ポンコツ最高!』
 リリィは微笑む。
 「ポンコツでも、笑われても……姫は、皆さまのために生きます!」
 その声に、世界は再び熱狂した。
 ――ポンコツ姫君の生配信は、今日もバズり続ける。
    
        世界観がめちゃくちゃですが、即興で考えたのでゆるしてくださいΣ(ノ≧ڡ≦)