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衝突、そして
「ワタクシハ!大事な人たちヲ守りタかッタ!全てヲ守りタかッタ!ダカラ憎い奴らガ蔓延るこのふざけテいる世界を作り直し統制スル。どうシテワカラナイ。分かろうとシナイ?正しい世界ヲ見たくナイノか?平和な世界ヲ見たくナイノカ?ソンナ理想郷ヲツクルとイッタノニ!ナゼ賛同シナイ?」
ノイズの混じった声はひらすらに訴える。耳を塞ぎたくなるほどの重圧に3人は顔をしかめた。
「悪いけどアタシはあんたの考えている事が理解できない。てか理解したくもない」
「作り直したとて、それは平和な世界と言えるのか?オレは思えねぇけどな」
「私はいえ、私たちは禁忌を犯してまで手に入れたそんな世界なんて、平和な世界だとは思えません」
「ウルサイ!ウルサイ!大人しく従エ。従ウ先ニ理想郷ガ作ラレル」
猛攻は続き緊迫した時間が流れる。このままではこちらの体力の方が持たないだろう。アリフェは腰に提げていた短剣で束を切りながら脳をフル回転させ考えた。
どうする、魔術が使えず物理で殴るしかないこの状況、圧倒的な戦力差、倒しきるのはほぼ不可能に近いだろう。倒せないなら封じてしまえばいいのではないか。たとえ自身が犠牲になったとしても。
「ルーフ、力を貸してください。ですが、恐らく命に関わるかもしれません。それでも力を貸してくれますか?」
ワフッ
とルーフは力強く答えた。
「2人とも!私にできるかはわかりませんが奴を無理矢理にでも封じます」
「封じるって何を……何か策があるってんならやってみろ」
「何言ってんのよ、こんな時にっ!ふざけんじゃないわよ」
「では」
アリフェは持っていた短剣を投げつけた。投げられた短剣はルーフの手助けもありバラーニの頭上に刺さり魔術が発動する。爆発と同時に崩された瓦礫が当たりバラーニの動きが止まる。すかさず杖を構え呪文を唱えようとしたが止められた。
「待ちな、お嬢ちゃんに変なオオカミ。あんたたちには代償がでかすぎる。てか、その魔術使えばあんたたち死ぬよ。|邪《よこしま》な気配がすると飛んで来てみれば何やってんだい?魔法騎士団も落ちぶれたもんだね」
「あなたは……」
振り向いた先にいたのは伝説の魔術師ブバルテだった。アリフェの記憶の中の人物と酷似していた。なぜこのような場所にいるのか。アリフェはとても混乱している。
「ギァアアァア」
バラーニの猛攻が更に激しくなる。このままでは神殿が崩れてしまいかねない。
「嬢ちゃん達、そろそろ下がりな。こんな化け物によく耐えた。後は私がどうにかしてやろうじゃないか」
|遍《アマネ》ク力ヨ我ガ魔力ヲ代償ニ悪シキ残虐ヲ封ズル結界ヲ
--- |異空間ヘノ封鎖ノ結界《ディファレスーペ・ブロキイング・ブアリ》 ---
辺りが白い魔法陣で輝き言葉では言い表せない断末魔が響いた。そしてバラーニだった化け物は一瞬で姿を消した。
「ほら、あんたたち逃げるよ。早くしないと崩れてきてる。私も逃げるよ生き埋めにはなりたくないからね」
急かされるまま神殿の外に出た。ポロポロと瓦礫が落ちてくる。全員が外に出たのと同時に神殿は跡形もなく崩れてしまった。
「あんた何者だ?何故あのような魔法が使える?」
トリカが警戒しながら尋ねる。すると
「私を知らないと?無理もないか、時の流れは無情だね。私は魔術師のブバルテ。そこのお嬢ちゃんは判ってたらしいがね」
とアリフェを指した。アリフェはゆっくりとうなづく。
「そうですね。お久しぶりですブバルテさん。だいたい8年ぶりくらいでしょうか。あれから私、魔術師になりました」
アリフェはわざと名乗らなかった。なんとなくわかってもらえるそんな気がしたらしい。
「あぁ、あの時の嬢ちゃんか。大きくなったねぇ。魔術師か、あれから頑張ってるようだね」
「ブバルテってあの魔王による侵攻をたった4人で食い止めたとされる|四柱《クアトロ・ブリアース》の中の魔術師!多くの高等複合魔術を解読し扱ったとされる人物」
話を遮ってしまったネリネはあることに気づいたらしくとても驚きを隠せないでいた。
「そんな風に呼ばれてたこともあったね。今は放浪してるただの魔術師だけれど」
「それは本当か。魔王の侵攻ってもう随分昔のことのはずだがそれにしてはいささか年齢……」
「細かい事はいいんだよ。|女性《レディー》に年齢の話はご法度だって知らないのかい?」
「うっ、すみませんでした」
凍てつくような視線を浴びたトリカは謝るしかなかった。
「謝れるならよろしい。じゃあね、私は行くよ。アリフェとそのお友達。またどこかでね」
と言い残しブバルテは颯爽と森の中に消えていった。
「名前、覚えていらした……」
「ねぇ、アリフェ、伝説の魔術師って嵐のような人だね。それにあれはすごく強い」
「えぇ、ものすごく強いですよ。私の憧れですから」
「お前たち、そろそろ町に戻るぞ。やらなければならないことが山積みだからな」
3人は町に向かって歩きだした。辺りはもう夕方になっている。
ブバルテ・リーゲラ
魔術師
圧倒的な魔力量と魔術の知識を持つ。1度見たものは忘れない。|四柱《クアトロ・ブリアース》の1人。現在は放浪の旅にでている。旨い魚と酒が好き。
|四柱《クアトロ・ブリアース》
かつて魔王の侵攻を食い止めた4人の英雄。参考文献が少なすぎて高い技能を持ちすぎた集団だったのではと噂されている。4人の冒険の手記が存在するとかしないとか。