公開中
四季折々・推理小説部 #7
「秋音の解決編。スタート」
そんな、夏葉の揶揄うような台詞と同時に、秋音は立ち上がった。
勢いよく立ったので、料理部の4人も自然と秋音の方を向く。
「快人さん、最後にひとつ質問させて。あなたもしかして、妹がいるんじゃない?」
「あ、はい……。小学生の妹が、ひとり」
「なるほど。わかったわ。《《私にはこの騒ぎの真相が全てわかりました》》」
主人公の如く、キメ顔でキメ台詞を言う。
「それじゃあ探偵モノの主人公よろしく、ずばり、言わせていただきましょうか」
悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ずばり犯人は、あなたよ。__熊部、快人さん」
「…………え」
「恐らく昨日、橅木さんと五十瀬さんが顧問の先生を呼びに行っている隙に、琥珀糖を盗んだんじゃない? 3人は無理でも、1人の目くらいなら掻い潜れるからね。あなた、昨日部室に来たとき、指先が少し光っていたわよ。盗るときに、琥珀糖の表面の砂糖がついちゃったんじゃない?
ちなみに、あなたが盗みを働いた理由なんだけれど、これは完全に憶測だからそれを念頭において聞いてね。あなたの家には妹がいる。あなたの家は貧しくって、妹が小さい頃から面倒を見てきた。ある日妹に、テレビか何かで見たのかしら、『琥珀糖が食べたい』と言われた。そのとき流れで話してしまった。今度部活で作る、と。目をキラキラさせ、食べたいと言い出した妹。あなたはそれを無下にはできず……盗んでしまった」
正解です、と、快人は項垂れた。
「うち、実は父子家庭で……父は俺たちの生活費を稼ぐのに必死で、いつも仕事で家にいなくて。妹には何かと我慢させちゃってたから、少しくらい、贅沢させてやりたかったんです」
「盗んだ琥珀糖が3つだったのは……お父さんと、妹さんと、あなたの分、だったんだ」
夏葉が口を挟む。
「そうだったの……」
楓が小さく声を漏らした。
「でも、だったら私たちに言ってくれれば」
「それは、そうですよね……すみません。ただなんか、俺、唯一の男子なんで、煙たがられてるんじゃないかなって思っちゃって……。相談してもウザがられるだけなんじゃないかって」
それまでもじもじしていた美風が、急に声を張った。
「ごめんなさい! わたし、快人が盗んだの、薄々気づいてました。幼馴染なので、家の事情とかも知ってるんです」
数秒、沈黙が流れる。
「まあ、ちゃんと理由があるんなら、別にいいわよ。私は無差別の愉快犯が一番嫌いなの」
キッパリと言い切る詩音に、
「そういう言葉キツいところが、相談しにくいんですよー」
と楓がツッコむ。
「う」
わたしは慣れちゃいましたけどね、と快活に笑う楓。
「そんなに怖がらなくてもいいんだよ、熊部くん。一応可愛いところもあるんだよ? この人」
「そう、ですか」
快人の言葉が重々しかったので、怖がらせてしまったかと思って顔を覗き込んだが、反省していただけらしい。表情が歪んでいる。
「ごめんね、快人。これまで気がつけなくって」
「ううん……ごめんな。共犯みたいにさせちまって」
場の緊張が徐々に解けていく。
「さて、騒ぎにもひと段落ついたことだし、うん、解決でいいかしら?」
「ええ。ごめんなさいね、迷惑かけてしまって」
「いえいえー。依頼料はお菓子4つで結構よ?」
秋音は冗談で言ったつもりだったのだけれど、詩音は「そうね。近いうちに渡しに行くわ」と返した。
賑やかさが戻っていく中、春汰はふと窓の外に目をやる。
いつの間にか空が琥珀色に染まっていた。