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春は別れの
前作 https://tanpen.net/novel/d385c3be-cc33-4657-aa4e-79bc6f9c5925/
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「あぁ……寂しいのか、俺。」
呟いたその声は誰が聞くでもなく部屋に響いた。
静かな春、期末も終わり、新学年の足音近づく3月のことである。
「こらーっ!!おおはら!!」
「げっ!?バレた!なんで!?」
今日も今日とて少年は担任と追いかけっこをしていた。
MENのカバンに仕込んであった火薬が暴発したのか、辺りにはものが散乱している。
「バレたもなにも学校に火薬を持ち込むのはお前しかいない!!」
おおはらMEN。それが少年の名前だ。中学二年生。花火屋の息子である。
見ての通りの火薬好きで、カバン、リュック、ポケット、果ては隠し場所を作ってまで仕込んでいる。
やりすぎたためもはや先生も慣れっこなのだが。
「あ、やっぱりMENや。またやったん?」
「今度はカバン?仕込んでないとこないの?」
呆れたような声に振り返ると、そこには二人のクラスメイトがいた。
眼鏡の学年委員長、そして次期生徒会長と白い髪の生徒会総務……次期副会長である。
「お、おらふくんにおんりーじゃん。次の時間移動だっけ?」
先生に怒られているにも関わらず、クラスメイトに予定を聞く様子からは反省の気は感じられない。先生も二人も呆れたように、けれど二人はどこか満足気にため息をついた。
「次、理科やで。……僕ら先行っとるな。」
「今日は実験だから早め集合って先生が。
ほら、これMENの教科書とノートとファイル。」
「お、サンキュー!」
先生のお怒りを長引かせないようにとのおんりーの配慮であろう。
感謝しながら、自分の荷物を受け取った。さすがおんりーである。仕事が早い。
「じゃあ、理科室で。」
「りょーかい!」
二人を見送り、唖然としている先生に向き直った。
「お前は反省という言葉を知らんのか……?」
「はん……せい……?」
ちょっとばかしふざけたため、先生からの怒号が廊下に響き渡った。
あーだのこーだの一通り話が終わると、ようやく先生は少年を解放した。
「……もういい、早く次の教室に行きなさい。」
「わかりました!あ、あと火薬玉2個くらい残ってると思うんで探しといてください!」
え、おい!!という先生の言葉も無視して、少年はさっさと走り出した。
少し進むと、ドッ、と誰か大きな人間にぶつかった。
少年は学年、学校の中でも割と大きな方である。
しかし、その自分よりもっと大きな人間を、少年は二人しか知らなかった。
「あ、MEN。またやったね?」
「三年教室まで響く音ってどんだけよ。あれ、もしかしてMEN次、持久走?」
先輩、ドズルとぼんじゅうるである。
学校トップクラスの身長を持ち合わせる、生徒会の会長と副会長。
そんな二人と少年は、なぜか小学生から知り合いであった。きっかけはもう覚えていない。
「違うでしょ、MENたちの3時間目は理科。持久走は僕たち。」
「なんで知ってるんすか、2Aの時間割。」
珍しい少年のツッコミはドズルの耳には届かなかった。
そうか、二人は次体育。確かに体操着姿である。
「げぇっ……思い出させないでよ。」
「「いや忘れてたんすか!?」」
ツッコミが被る。……珍しい。
ふと、3年D組の予定黒板が目にはいる。
1時間目、国語。2時間目、数学。3時間目、体育。4時間目、社会。
5、6時間目、学活。……卒業式について。
あ。そうか。なにかが抜けたような気がした。
この人たちはあと一ヶ月でこの校舎を去る。2人はどこの高校志望だったっけ。
違うところだった気がする。ドズさんはあそこの進学校で、ぼんさんは……?
いや自分が知る必要はないけれど。一瞬で何かが崩れた。
「……MEN?」
ドズルが心配そうに顔を覗き込んでくる。
その時、タイミングよく予鈴が鳴った。
「あ、予鈴!じゃあ俺、理科室なんで!持久走頑張ってください!」
「う、うん。」
気にしたことはなかった。小学生の時は、二人一緒の学校っていうのは決まっていた。
それに、登下校の時はいつも一緒だった。
あぁそっか、今度は違うのか。二人はどこまで遠くに行くんだろう。
電車でも使うのだろうか?それとも近場?いや、もしかすると寮……。
思考は悪い方向にぐるぐる回る。今回彼らは別々の道を歩むのだろうか?
ずっと隣にいる彼らを見てきた少年からすると違和感しかない。
そして、会えなくなることも、違和感しかない。
全てを振り払うように駆け出した。
階段を二段飛ばしに駆け下りて、転びそうになりながら理科室に転がり込む。
「セーフッ!」
「だいぶアウトに近いセーフだよ。」
学年委員長の怒りの視線を避け、自らの席に座る。
それと同時に授業開始のチャイムが鳴った。先生はまだ来ない。
「それで?今日はいくつ仕掛けた?」
先程までの怒りは少々収まり、少しの興味と呆れの入り混じった問が投げかけられた。
「10……だな、多分。」
「さすがにやり過ぎ。よく何も壊さなかったね。」
「火薬の調合の割合。あと着火の仕方。」
ノートに図式と火薬の量、破壊力などを書いておんりーに渡す。
おんりーはそのノートを一瞥した後、隣のおらふくんにも見えるような位置に移動させた。
「ずいぶん専門的やね。‥…多分僕だと大爆発するわ。」
「おらふくん、良い子はやっちゃだめだよ?いや悪い子もだめだけど。」
「おい、俺を何だと思ってる。」
ガラ、という音とともに、騒がしかった教室が一気に静まる。
わぁわぁという体操の声は先輩二人のクラスだろうか。
チョーク、静かな話し声、実験準備の音。
その中で、三年生の声が一番近く感じたのは、なぜだろうか。
少年はその理由を、まだ知らない。
夜、7時。パソコンの電源を入れる。ディスコに入る。
先輩はもう待っていた。
「ふぁーぁ。おつかれさんでーす。」
『おつかれー、MEN。あれ?おんりーとおらふくんは?』
パソコン上での会話は、割と気楽だ。
誰に聞かれるでもなく、ありのままの自分でいられる。
ゲームでは爆発だって、建築だって、自由自在にできる。こんなに楽しいものもない。
「塾です。……ぼんさんも?受験近いし。」
『ははっ、そうだね。正解。』
「意外。ぼんさんは勉強そっちのけでゲームしてるイメージだったな。」
その言葉にドズルの笑いが一層増す。爆笑、という言葉がピッタリの笑い方である。
『そうだね、そうだよ。僕もそう思ってた。
すごいんだよ、ぼんさん。一年間遅刻なしなんだ。
しかもテスト勉強もサボってない。順位もいいところ取ってるんだよ。』
画面越しでもわかる笑い具合に、少年は奇妙さを隠せなかった。
なにがそんなに面白いのか。彼の笑いのツボを押すのか、さっぱりわからない。
『ふふっ、はー、ごめん。僕にしかわかんないツボだった、これ。』
「なんすか、それ。」
まだ苦しそうに息をする先輩は、どこかとても嬉しそうだった。
……夜は、深まる。そして一日がすぎれば、近づいてくるのは卒業式。
彼らがいなくなった時、自分はそのままあれるのだろうか。
少年は、どこか気持ちに空洞が空いているような気がしてならなかった。
「寂しいのか、俺。」
一通り終わって通信を切った後、こぼれた言葉は、春の夜の闇に消えて、誰にも届かなかった。
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「……起立、礼!」
時を止めるすべはない。気づいてしまったからには、流れるように消えていく。
永遠を過ごしたいと思う時ほど、止まってくれと願うほど、流れるスピードは上がっていく。
「中学校生活、お疲れさまでした。」
「お疲れ様です!ドズルさん、ぼんさん!」
笑う二人の顔に、涙は見られない。二人らしい、笑顔だった。
卒業式が終わった。一ヶ月、あっという間だった。
もやもやしたものを抱えたまま、【いつも通り】に過ごそうと試みた。
できるはずはなかった。でも、しなければならないと思った。
自分が抱えている感情を、二人に見せるわけには行かなかった。
「ありがとう。ぼんさんも良かったですね。」
「まぁ、そうね。あぁ、あの体育館のヘコみともお別れかぁ。
ドズさんが不良止めるために拳打ち付けたときのアレ。」
「あー、懐かしい。今やったらもうちょっと深くいけますよ。」
「やらないでくれる!?そうなったら俺も事情聴取よ?」
ドズぼんは一切変わっていない。小学校の時からこんな感じだった。
それも今日でおしまいかもしれないと思うとなんだか_______。
「MEN?どないしたん?今日静かやけど。」
「あ、あぁ、いや?なんでもない。」
おらふくんの言葉に静かに首を振りつつ、二人を見る。
行ってほしくない。まだ3人で馬鹿騒ぎしていたい。
「……寂しいですね、2人がいなくなると。」
「ん?」
おんりーが不意にそう言った。全員が固まった。
静かに、吹き荒れる春の風の音だけが耳を貫いている。
最初に沈黙を破ったのはぼんじゅうるだった。
「ふ、そう?」
「そうですよ!寂しいです!」
「ぼんさん、高校で遅刻ばっかしないでくださいね。留年あるんすから。」
「いやさすがに………まて、ありえるな。」
ありえるんかい!!!!!全員のツッコミが炸裂する。
まぁ、割と真面目なぼんじゅうるのことだ。きっと大丈夫。
自分のぼんじゅうるに対する謎の信頼に、ふは、と吹き出した。
「お、笑ったね。MEN。」
笑った。その言葉に、ドズルの顔を凝視する。
なんとも面白そうに、そして嬉しそうに、笑っていた。
「……ねぇ、MEN。」
「はい?」
「帰ったらゲームしよう!」
え。その言葉は声にならなかった。
あまりにも抜けていて、あまりにも突拍子もない言葉だった。
「休みの日にはサウナ行こう!あとゲーセンと焼肉!いいでしょ、ぼんさん?」
「ふ、いいね。おんりーチャンもおらふくんも行こうよ。」
「行きます行きます!!」
「楽しそうですね。……勝負で喧嘩しないでくださいよ?」
「ん〜、MENとぼんさん次第だな。」
自分の知らないところで話がどんどん進んでいく。
少年が戸惑っていると、ドズルはニカッと笑った。
「3人とも、高校で待ってるよ。僕も、ぼんさんも。」
その言葉の意味を、少年は最初に理解した。
「え、おんなじとこ受かったんすか?ドズさん志望してたのって有名な、あの。」
「そうそう、ぼんさん必死に勉強してたよ。……僕と一緒がいいって。面白いでしょ?」
「言うなよ……。あと笑うなよ!また、5人で揃いたいってだけだって。」
あぁ、だから。だからか。彼のツボにはまったんだ。少年は納得した。
あの面倒くさがりの男が、自分と一緒がいいという理由で努力している。
それをずっとそばで見てきたんだから。
「まぁまぁ。そんなわけで、生徒会任せたよ、おんりー。」
「……努力します。」
「ちゃんとおんりーチャンに迷惑かけない程度に暴れろよ?おらふくん。」
「はーいっ……って暴れませんよ!?」
あとMENは。二人は笑っている。春の風が吹いている。
「「爆発させすぎないように!」」
「3年になったからって後輩びっくりさせすぎないでね!」
「毎年びっくりしすぎて腰抜けるやつ多いんだからな!」
二人からの反応に、また少年から笑みがこぼれる。
来年はどんな火薬にしてやろうか。反省は一切していない。考え直す気もない。
「……でもぼんさん、俺の火薬無しで遅刻せず行けるんです?
向こう電車だから一本遅れたら命取りっすよ。」
「げっ……それは言わないお約束でしょーよ。」
「あ、ぼんさん、写真撮影!じゃあみんな、後でね!」
去っていく2人の背中は、昔よりずっと、ずっと、大きく、それでいて暖かく感じた。
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拝啓、先輩へ。
必ず行きます、待っていてください。
先に行ってたりなんかしたら、許しません。
火薬とゲーム好きな後輩より。