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第一話
灰色の夜空に、街の灯りが点々と瞬く。
|一ノ瀬乃愛《いちのせのあ》は薄暗い路地に身を潜め、心臓の鼓動を抑えながら息をひそめていた。
「…くそっ、はめられた。こんなところに追い込まれるなんて」
後ろから重い足音が近づく。瞬間、乃愛は思わず、笑みを浮かべてしまう。
振り向く間もなく、影が彼の前に立ちはだかる。黒い戦闘服、鋭い瞳、そして静かな威圧感。
「今です!隊長!」
その声を合図に、隊長──彼は素早く敵の前に立ち、鋭い動きで相手を押さえ込む。暗闇の中を素早く駆け抜ける姿は、まさに夜闇の豹そのものだった。
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その後、街の片隅にある倉庫で、ルカと乃愛は静かに作戦を確認していた。
「隊長さっきの作戦上手くいきましたね。」
乃愛は少し嬉しそうにいった。
「お前、相手が弱いからって自分を囮に使うの、やめろよ。まぁ、無事でよかったわ。無茶はすんなよ。」
ルカは少し呆れたように言う。いつも明るく飄々としている隊長だが、心の中では仲間のことを心配しているのだ。
「……はい、気をつけます。…でも、!今回のは《《本当に》》弱い敵だったのでこうした方が早く終わると思ったんです。それに、間違っても《《あんな弱い敵》》に追い込まれるなんてことは《《絶対に》》ないと思います。」
「お前……本当に気をつけろよ…?」
笑い合いながら、2人は倉庫を後にし、残っている敵を片付けに行った。
「そういえば…お前がきてもう半年ちょいだな。」
「あぁ〜?、そんなに経ちましたか?」
「まぁお前、来てすぐに任務とか仕事とかちょー頑張って数ヶ月で副隊長になったもんな〜。忙しくてあっという間だったろ。」
「はい。_それにこの組織は俺にとって大切な場所なんで。」
「…そうか! それと、うちの情報部隊が今勢力が強い他組織をまとめた資料を作ったらしいから、後で確認しとけよー。」
「分かりました。…それにしても他組織はどれも謎に包まれていたり、情報が全くないことが多いのによく調べ上げましたね…。」
「あいつらすげぇからな。…あっ!確か、極秘情報だからパスワードがいるんだよな…。えっと…紙は…。」
隊長がゴソゴソとポケットの中を探す。
「………ちゃんとあるんですよね?」
疑いの目を抜けながら少し不安そうに乃愛が聞く。
「あるある。絶対直した。」
ようやく隠しポケットの中から一枚の紙を取り出す。
「あった!この紙に書いてあるから、ほい、間違えずに入力しろよ〜。」
小さな紙切れを乃愛に渡す。
「パスワードって今更必要ありますか?」
乃愛が不思議そうに聞く。
「なんでもうちの組織の情報も軽くまとめてるらしい。だから万が一にも他の組織に伝わらないようにって感じらしい」
乃愛は受け取った紙を見て、ポケットの中へしまう。
「情報部隊…本当に優秀ですね。仕事しかしてないじゃないですか。」
「だからか!昨日、やっと終わった〜って喜んでるの見たわ〜。」
笑いながらもルカは立ち向かってきた敵を素早く倒していく。
「まっ|あの情報《他組織》を調べ上げるのは相当大変ですからねっ!」
乃愛は喋りながらも後ろからサポートする。すると、どこからか隠れていた敵が背後から現れた。
「おらっ!」
急な攻撃に乃愛は思わず体制を崩してしまう。
「っ!」
その拍子で先ほどまでポケットに入れたはずの紙が落ちていた。
「!」
敵はその紙に書いてある文字を見て、すぐに拾おうとした。その時、
バンッ___「うっ!…………。」
短い発砲音が響き、敵は倒れていた。
「ほら、油断大敵だろ?」
目の前にはこちらを見て笑っている隊長がいた。
「隊長…!助けてくれてありがとう、ございます…。」
乃愛は紙を拾い今度は隠しポケットの中へしまった。
気づけば、周りの敵は全て片付いていた。
「…帰るか。」
ルカのその言葉を最後に2人はその場を後にした。
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--- 街の路地にて ---
先ほど、2人にやられたはずの敵が体を引きづらせながらどこかへ向かっていた。なんとか一命は取り留めたようだが、その姿は今にも倒れてしまいそうだった。
「はぁ、はぁ、……やっと掴んだんだ。絶対に知らせない…と、うぁっ!?」
男は自分の胸元を押さえる。男の胸元は赤色に染まっていた。
男の視界が滲む。血の赤と紙の白だけが、やけに鮮やかに見えた──。
「そ、そんな、なん……で…」
その言葉を最後に男は倒れた。ふと、男の手から紙が落ちる。
その紙には急いで書き写したように、文字が綴られていた。
___その紙には「ノクティアパスワード"LunAbyss_0fBalance"」と書いてあった。
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