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第12話:賑やかな食卓
「ほら愛菜! 遠慮すんな、肉だ肉! 食わねえと大きくならねーぞ!」
秋葉家のダイニングテーブルは、戦場だった。
中央には山盛りの唐揚げと、真蓮の大好物であるチャーシューが並び、まるでお祭りのような熱気に包まれている。
「……あ、ありがとうございます」
愛菜の前に置かれた茶碗には、いつの間にか漫画のような山盛りの白米が盛られていた。
「母ちゃん、愛菜はそんなに食えねーよ!」
「何言ってんの、真蓮! 幸せは胃袋から来るのよ! 愛菜ちゃん、無理しなくていいから、好きなだけ食べなさいね」
真蓮の母・佳代が笑い飛ばし、父の正一がガハハとビールを煽る。
「愛菜ちゃん、うちのモットーは『早い者勝ち』だ! もたもたしてると悠馬と朝日に全部食われるぞ!」
「えーっ! 僕たちそんなに食いしん坊じゃないもん!」
「嘘だ! 優馬、さっき唐揚げ三つ一気に口に入れただろ!」
目の前で繰り広げられる、遠慮のない、けれど刺々しさのまったくない言い合い。
愛菜は箸を持ったまま、呆然とその光景を見つめていた。
叔父の家での食事は、音を立てることも、目を合わせることも許されない、凍りついた時間だった。
けれどここは、音が溢れている。笑い声が、食器の触れ合う音が、明日への活力が、エコーのように部屋中に響いている。
(……温かい。お味噌汁の湯気だけじゃなくて、この場所が……)
愛菜はおずおずと、唐揚げを一口かじった。
じゅわっと広がる肉汁と、濃いめの味付け。
「……っ、おいしい……」
「だろ!? 母ちゃんの唐揚げは世界一なんだぜ!」
真蓮が自分のことのように胸を張る。その時、真蓮の視線と愛菜の視線がぶつかった。
愛菜は、少しだけ、本当に少しだけ、自分から彼に微笑みかけた。
「……秋葉くん。……真蓮くん、ありがとう」
「っ……!!」
不意打ちの「名前呼び」と、これまでで一番柔らかい笑顔。
さっきまで「肉よこせ!」と騒いでいた真蓮が、石像のように固まった。
顔が、耳の付け根まで、彼の髪の色と同じくらい真っ赤に染まっていく。
「……う、うっせ! 早く食えよ、冷めるだろ!」
真蓮は顔を背け、猛烈な勢いで白米を口に放り込み始めた。
「あーっ! 兄ちゃん照れてるー!」
「顔、真っ赤っかだー! リンゴみたーい!」
「うっせ、うっせーわ! 暑いんだよ、この家は!」
弟たちの容赦ない突っ込みに、リビングはさらに爆笑の渦に包まれる。
愛菜はその賑やかさの中に、そっと自分の居場所を見つけた気がした。
初めての「おかわり」を口にした時、彼女の心の中にあった雨雲は、秋葉家の熱気で跡形もなく消し飛ばされていた。
🔚