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#特別
僕には、特別ってものがなかったのかな。
小さい頃からずっとそう思ってる。
傷はいつだって消えなくて、まるで古い絆創膏のように、何度貼り替えてもまた剥がれてしまう。
だけど、誰にも|その傷《心の傷》は見せないようにしてきた。
笑って、明るく振る舞うのが、一番|心配させなかった《迷惑かけなかった》。
誰かに助けを求めることは、子供の頃から知らなかった。
求めても届かないって知ってたから。
だから僕は、誰にも頼らず、誰からも愛されず、ひとりで頑張ってきた。
僕の本当の気持ちを知ったら、きっと誰も離れていく。
それが怖くて、いつも《《空っぽの笑顔》》を作った。
僕はいつだって、透明な存在だった。
誰かの視線に触れることなく、でもその寂しさを隠すために、仮面を被り続けた。
僕の居場所なんて、どこにもなかった。
誰かに認められたい。
誰かに必要とされたい。
そんな気持ちは胸の奥に閉じ込めた。
|顔《態度》には出さずに。
僕の存在は、まるで空気のようで、
どこにでもいるけど誰も気に留めないものだった。
そんな自分が、時々羨ましかった。
だって...相手に気に障らないでしょ、
人は皆、特別になりたいと願うのに。
僕にはそれが許されなかった。
僕の心はいつも、冷たい風に晒されているみたいだ。
温もりなんて知らなかった。
いらないわけじゃない。
ほしかったわけじゃない、もらえなかった。
僕は特別が欲しかった。
誰かの特別じゃなくていいから、
誰かの、誰かの|**友達**《とくべつ》になりたい。
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朝起きるたびに、家の空気はどこか冷たかった。
カーテンの隙間から漏れる光は柔らかいはずなのに、部屋の中では色を失っていて、息をするのも窮屈で。
食卓の上には、何も言葉が置かれていなかった。
母は疲れた顔でスマホをいじり、父は新聞の向こうで黙ったまま。
テレビからは明るい声が流れていたけれど___。
それが余計に僕の世界の静けさを際立たせた。
泣いても、怒っても、拗ねても、何も変わらなかった。
だから僕は、ある日から泣くのをやめた。
怒るのも、諦めた。
|偽善者《いいこ》でいれば、きっと誰かが気づいてくれると思った。
でも、それでも誰にも届かなかった。
「大丈夫だよ、僕。何でもできるもん」
そんなふうに自分に言い聞かせながら、笑顔を作った。
まるで仮面を被るみたいに、ぴたりと口角を上げて。
|笑顔を見せて。《作り笑い》
誰かに心配されるより、誰かの安心要因になる方がずっと簡単だった。
そうしてできた笑顔は、どんどん自然になっていった。
自然になりすぎて、時々、自分でも嘘と本音の区別がつかなくなった。
学校でも、僕は「明るくていい子」だった。
先生にも友達にも、そう見られるように、少しだけ頑張った。
冗談を言って場を和ませたり、空気を読んで自分の発言を控えたり、誰かの愚痴に頷いてみたり。
そういうふうに動く自分は、まるで誰かの|サポートキャラ《脇役》みたいだった。
主役にはなれないけれど、嫌われないために、
僕は周囲の温度に合わせて自分を薄めていった。
だけど、夜になると、そんな自分にひどく疲れてしまう。
寝る時、天井を見上げるたび、
「なんでこんなに苦しいんだろう」と思った。
誰にも言えない本音が、喉元までこみあげてきて、
でも声にはならなくて、涙になってこぼれていく。
その涙の理由を、僕自身もうまく言葉にできなかった。
助けてって言いたいのに、言えない。
甘えたいのに、甘える方法がわからない。
何かを求めて、傷つくのが怖かった。
だから、誰にも何も望まないようにしていた。
そうすれば、きっとこれ以上、傷つかずにすむと思った。
でも本当は、誰かに気づいてほしかった。
「無理しなくていいよ」って言ってほしかった。
笑わなくても、そばにいてくれる人が、ひとりでもいればよかった。
僕の心にできた傷は、目に見えないから誰にも気づかれずに、静かに深くなっていった。
そして、気づけばその痛みにも慣れてしまっていた。
痛みのない世界が、どんなものなのかさえ思い出せないまま____。
ただ「平気なふり」を続けていた。
へーきだから__________。