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はじめての……
はじめての読み切りっす。
最後まで読んでいただけると、うれしいっす。
私は、クラスでもあまり目立たないほう。
ただ、人気者くんと美人ちゃんを遠くからぼんやりと眺めるだけ。
だけど、私の視界の隅っこには、私みたいに目立たないタイプの男子がいた。
その男子は、前髪が長かった。それだけじゃなく、毎日長袖の制服を着ている。マスクもしているし、いつも外を見ているから、顔をしっかりと見たことがない。弁当を食べる時くらいマスクを外す姿が見えると思ったのに、気づいたらどこかに行っていた。屋上で食べているのかもしれない。
私には、友達と呼べる人がいない。私が暗いから。影か薄いから。誰も近づかない。話しかけて来ようともしない。ましてや、話しかけると無視される。
誰もいない教室で言った。
「もしかして、私、いじめられてるのかな……」
はぁ……。
思わずため息が出る。
「たぶんお前、いじめられてんじゃないの?」
急に声がして驚いた。
反射的に顔を上げる。
声がしたほうは、後ろの入り口のほうだ。私は、振り向く。
聞いたことのない声だった。
「え、えぇ!? いたの……?」
名前を思い出せなかった。
あの声の正体は、クラスでうっすらとした気配の、例のマスクをつけた男子だった。
「名前、忘れてるんじゃないだろうな? こういうのって、最初に名前が出るもんだろ?」
意外と毒舌だなぁ……。
「オレは、|多嘉田結城《たかだゆうき》だ。クラスの名前くらい、覚えとけよ」
「あ……。結城くん、ごめん。それよりも、私がいじめられてるって……?」
やっぱり、いじめられてるのか。
「それなんだけど、オレ、お前の悪い噂知ってるんだよね。あのさ、」
え、私の悪い噂?
何、私、本格的にいじめられてる?
「お前、人気者くんのこと、好きで、近くにいる美人ちゃんに嫉妬してそいつに嫌がらせしてるらしいじゃねーか」
「な……何言ってるの? 私が、嫌がらせ?」
「あぁ、そうだ。だから、あいつらは無視とかしてくるんだよ。明日からは、もっと酷くなるかも知んねーから気をつけなよ」
「は……はい」
え、私、でっち上げられてる?
そんな、美人ちゃんに嫌がらせ?
そんなことするはずない。私なんかが……。
---
翌日の早朝。
気が付くと、私は高校の下駄箱の前に立っていた。
まだ、登校していい時間じゃないし、玄関には、鍵がかかっているはず。
「……なんで?」
「おーい。なにしてんだよ。こんなところに呼び出しておいて。ずっと下駄箱のほうむいてんじゃねーよ」
「あ、ごめん。結城……くん。私、なにしてるのか、よくわからなくって……」
「は?」
本当に、何がどうなっているのか、さっぱりだ。
「何もないなら、オレはもう帰る。じゃぁな」
「あ、待って!」
「…何?」
結城くんに行ってほしくなくて、つい引き留めてしまった。
何も言うことなんかないけど、私は、このまま二人でいたいと思った。
それをそのまま口にする。
「あの、私、結城くんに行ってほしくない。このまま二人きりでいたい。なんでかは知らないけど、そう思ったんだ。もっと、結城くんのこと、知りたいの」
「それって、告白? 随分と遠回りなんだけど。……まぁ、友達ならいいよ。それ以上はないと思って。んじゃ、帰るぞ」
「う……うん!」
これが、告白だったのかはわからない。でも、彼と帰れる事実が嬉しかった。
---
彼と一緒に帰るようになって早一週間。
会話は弾まず、ほとんど無言。しかも、彼のほうが先に行ってしまう。
いつも私は彼の後姿を見るばかり。いつか顔を見られればいいのだけど。
いつもは無言の彼が、珍しく口を開いた。
「あのさ、あれからどう? いじめ、つらい?」
正直に言って、つらい。私は何もしていないのに、なにかと理由をつけていじめてくる。
今日はトイレの水をかけられた。
「まぁ、つらいよ。私、なんでいじめられてるかわからないから、さらにつらいかな」
「……そっか。ごめんね、|志築《しづく》さん」
「え……?」
私の名前、はじめて読んでもらえた。
それに、なんで謝るの?
「あのさ、一週間くらい前、お前が美人ちゃんに嫌がらせをしてるって言ったじゃん。それさ、嘘なんだよね。それに、あの会話を聞いた人がいたらしくて、広まちゃったみたい。ちょっとからかうつもりだったのに。ごめん。オレのせいで、お前が……いや、君が、いじめられることになって」
そうだったんだ。
「全然いいよ。私、気にしてない。いじめも、耐えるから」
「本当にごめん。あのさ、あの時も、そっけない態度とってごめん」
「? あの時って?」
「おm……きっ、君が告白した時の……!」
「あぁ、あのときね。ちゃんと思いを伝えられなかったから、改めて言うね」
そう言って私は結城くんの前に立った。
「あの時、出会った時から、気になってました。君のこと、もっと知りたいと思ったの。だから、
私と付き合ってください!」
思い切って言ってみた。
初めての、ちゃんとした告白だった。
果たして、その答えは、
「――
---
私たちは、幸せだ。たとえ、冷たいトイレの水をかけられようとも、制服をずたずたに切り裂けられようとも、ロッカーに閉じ込められようとも、プールに突き落とされようとも。一ミリたりとも不幸と感じたことはない。
だって、いつでも君と一緒だったから。
私は屋上のフェンスを乗り越えて、頬を涙で汚した。
「今すぐ、会いに行くから、結城――。
はじめて読み切り書かせてもらいました!
あの告白の返事、結城はどう返したのでしょう?
そして、「今すぐ祐希に会いに行く」とは……?