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holic-6
そこに集められた三人の男女はそれぞれ自分が犯人でないと主張するのだが、その中で一人だけ妙に怪しい雰囲気を漂わせている者がいた。
ちなみに先輩の名は山本雅人といって階級は私のひとつ上の警部補である。
まあもっとも、彼の恋愛対象が同性の女性に限られているのかどうかまでは私にもわからないのだが。
アリバイとドラマツルギーと中島改造文学前回までのあらすじ:舞台はとあるアパートの一室である。そこに集められた三人の男女はそれぞれ自分が犯人でないと主張するのだが、その中で一人だけ妙に怪しい雰囲気を漂わせている者がいた。果たして、その正体とは……? さて、前回の続きである。語り手である私の名前は山野辺康弘といい、職業は刑事である。といってもまだ新人なので捜査活動の経験はほとんどないのだが、今は先輩と一緒に張り込みをしているところだ。ちなみに先輩の名は山本雅人といって階級は私のひとつ上の警部補である。彼は私の上司であり、仕事においては優秀な部下でもあるのだが、私生活の方はというとなかなかに謎に包まれている男であった。その素顔を知っている者はほとんどいないらしく、彼のプライベートを知る者はいないらしいのだ。そんな彼だが、一つだけ確かなことがある。それは彼がかなりの女好きだということであり、それはすなわち彼の恋人もまた女性であるということを意味するのである。まあもっとも、彼の恋愛対象が同性の女性に限られているのかどうかまでは私にもわからないのだが。時刻は午前九時四十五分頃のことである。私と先輩は今現在、ある一軒家の玄関先で待機しているところなのだが、ここで少しばかり雑談に興じることとしよう。とは言っても、その内容は極めてくだらないものなのだが……。
「なあ、知ってるか?」
先輩が突然話しかけてきたので私は答えた。
「何をですか?」
「いや、この前のことなんだが……」
「はあ……」
「俺はいつものようにパトロールをしていたんだが……」
「……あのう……」
「そしたらな……」
「ああもうっ! 一体何なんですか!? さっきからずっと黙ってるから何かと思えばどうでもいいことばかりベラベラ喋りやがって! どうせあれだろ? こないだ見たテレビドラマの話とか、コンビニで買ったアイスの種類とか、最近飼い始めたハムスターの名前とか、そういうどうでもよさそうなことばっかり喋ってんだろ!?」
私がそう叫ぶと、途端に辺りは静まり返った。そして数秒後、ようやく我に返ったのか、慌てて訂正してきた。
「い、いや、違うんだ!」
「何が違うんだよ!? どう考えてもそういうことしか言ってなかっただろうが!!」
「ち、違うんだってば! 確かにそれも言ったかもしれないけどさ、本題はそうじゃなくてだな……」
「だったら早く言えよ!」
「……わかった」
すると今度は急に真面目な顔になって話し始めた。
「実は俺、見ちゃったんだよね」
「だから何がだよ?」
「死体」
「……えっ……?」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。まさかとは思うが、この男、冗談を言っているのだろうか? いや、しかし、その割には目が真剣そのものだし、とても嘘を言っているとは思えない。ということは、本当に……?
「ど、どこで……?」
恐る恐る尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
「どこって、俺の家に決まってるじゃないか」
「ええっ!?」
「さっきお前、言ってただろう? 俺がいつもみたいにサボってるんじゃないかって。だからさ、たまには真面目に仕事をしようってことで今日は朝から張り込みしてたんだ。そしたら案の定、近所のマンションで殺人事件が起きたって連絡が入ってな、それで仕方なく現場に向かったというわけなんだ」
なるほど……。どうやら聞き間違いではなかったようだ。それにしても驚いた。まさかこんな身近に殺人鬼がいたなんて……。
「で、どうだったんですか? 犯人は捕まったんですか?」