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才能があるくせに使わない妹には努力の復讐をあげましょう
大嫌いな妹がいる。
私より後に生まれてきて、私が令嬢に必要な大方のことを覚えたところで、才能が発覚して、みんなの好き…興味を掻っ攫っていった、優秀だった妹。
お陰で私は忘れ去られ…いや、家族ではないものとして扱われている。ただ、それだけだった。
今の私は妹の専属使用人だ。
「ねえサラ、あなたの顔を見ると陰鬱だからこの部屋から出ていってくれない?」
「しかし奥様はミアマを見ていろとおっしゃられました。使用人にそれを破ることはできません。」
「ミアマとは呼ばないで。気持ち悪いわ。」
「こちらも奥様におっしゃられたことですが…」
「はぁ…あなたは自分で考えて行動することが出来ないの?こんなのが実の姉だなんて一生の恥よ。こんどお母様に進言してみようかしら?姉を捨てて、て。」
それはとても魅力的な提案だ。私は早くここから逃げたい。
だけど、妹がそんなことをするはずがない。妹は、私をいびるのが好きだから。そしていつも今度お母様に私が部屋から外れてもいいようお願いするわ、と言いながら、やらないのだ。全ては私をいびって楽しむため。
ーガチャン
「あら?花瓶が割れてしまったじゃないの?片付けておいてね。あなたが私の行動をちゃんと見ていないから、こういうのが防げないのよ。それが分かるのなら今度からはちゃんと…って出来ないからこうなっているのよね。そうね…そんなサラにはこれはあなたが落としたという罰が必要かしら?必要よね?では、お母様にそう伝えておくわ。」
これもいつものこと。こう言っていつも私が花瓶を落としていることになっている。
そう、いつものこと。こんな暮らしにももう慣れた。だからこれ以上傷つかないよう、心を無にする。
そうすれば、私の尊厳だけは守られるから。そうしなければ、私は壊れる。もう、限界にはとっくに達している。それでも、まだ私は生きたいと願ってしまう。
私への教育は妹が2歳になって才能の片鱗を見せたときまでだった。両親は妹を跡継ぎにすると決め、私は放って置かれた。だけど、それまでに買われていた教科書類は残っている。両親は、私に買ったものを妹にあげたりしない。だから、それで勉強すること、それがこの生活の唯一の救いだった。もちろん、私の味方をしてくれる使用人も救いではある。
妹をいいなと思っていたのは妹が4歳の時までだ。それまでは妹は勉強を真面目にしていた。そして、並外れの吸収力で、いろんなことを覚えていった、しかし、それもすぐに終わる。妹は、勉強しなくなった。あの盲目な両親の言葉を信じて。自分は天才だと思い込んで。だから、もう勉強はいらない、と。それでも両親は妹を信じたままだ。というか、このままいくと妹はどんどん衰退していくことに気がついていない。
ーそれも今日で終わった。
妹をこの手で焼いた。もちろん死にはさせない。ただ、両親が妹にかかりきらないように。新たな子でも見つけ、今度は真剣に育てることを願って。
そして、私は家を出た。
あのままの妹が君臨する家などいずれ潰れる。だから。
忘れ去られた長女である私がこの家を終わらせる。
そして、逃げた。たった一人で。
きっと両親は調べに来た人には使用人が焼いて逃げたというだろう。あの人達が実の姉に妹が殺されましたなんて言うわけがない。そして、使用人と言い張って私を探し、そして殺す。いい大義名分を得たと思いながら。
だから、一生懸命逃げた。捕まらないよう、見つからないよう、遠くへ。2つの街道のうち片方を選んで進んだ。幸い、お金は奪ってきた。
もっと…もっと…どれくらい歩いただろう。ずっと逃げ続けているから、お金は結局使っていない。そして、3日、寝ずにほとんど歩き続けた。
「見つけたぞ!」
あぁ…終わりだ。その言葉を聞いた私の意識は沈んだ。
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一人の令嬢が火傷を負ったという。
たったそれだけの捜査に、私が駆り出された。
その令嬢の火傷の原因である使用人を見つけるというのが、依頼だ。
その令嬢というのが公爵家で、まあまあ大事だから、私、第一王子まで駆り出されたのだろう。まったくいい迷惑だ。
まず、その両親を尋ねた。
「話を聞きたいのだが?」
「娘が殺されたんだ!使用人に!アイツめ…」
「使用人の出身は?」
「知らん!孤児だった!」
見た目である程度の特徴はあることもあるが、しかし見つけていないということはここらへんで生まれたのだろう、きっと。
「孤児ねぇ…。どうやって逃げたのだ?」
「普通に使用人用出入り口だ!くそっ!」
「ところで、火傷を負ったのは長女か?次女か?」
「長女だ!うちは一人娘しかおらん!」
おや?おかしいぞ?
これがこの事件の取っ掛かりになるかもしれない。
「分かりました、では見た目は?」
「碧の髪に藍の瞳だ!」
ふうむ。どうやら公爵夫人とまったく色が同じのようだが…。
血縁関係でもあるのだろうか?
「分かりました。では私たちが街道にはいくので、あなた達はこの街を探しなさい。」
「分かりました。」
ここから逃げられる街道は2つ。しかも街と街の距離はまあまあ長く、1本道だ。使用人ということは、体力はないわけではないのだろうが、所詮は使用人。そんなに遠くまで行けるわけがないし、時期に見つかるだろう。
そう思って探し始めて2日目。
まだ見つからない。反対側の街道だったのだろうか?しかし連絡は来ていない。だったらまだだろう。いずれは見つかるのだから、気長に探そう。
そう思って1日後。
「見つけたぞ!」
その方向を見ると、公爵夫人と同じ色をもった少女が、倒れ終わったところだった。
その令嬢は、サラと名乗った。記憶にあった公爵家の長女の名前と同じである。また、少女がしてくれた話は、信じがたいものであった。
妹の使用人になる、妹からのいびり、そして両親からの待遇。気分が悪くなった。
そして、少女はすんなりと告白してくれた。
妹を焼いたのは自分だ。あのままだと、妹は何も学ばず、より強引になる。それだと民に嫌われるだろうし、家も潰れるかもしれない。だから、妹の顔を主に焼いた。顔を焼けば、あまり社交界には出たくなくなる。それを機にもう一度学んで欲しい、と言っていた。もちろん、少女は妹が勉強に再び励むとは考えていなかった。
しっかりとした少女だと思った。
まだ、確証は何も無い。だけど、理由も無しに妹を焼く理由も、3日もずっと逃げ続ける必要はない。なにか大きい理由があったのだろう。そして、これがその理由であっても全くおかしなことはない。
使用人からの証言が揃った。
この少女は公爵家長女で間違いないようだ。そして、妹が、傲慢なのは皆言っていた。あの少女の言うことは本当のことなのだろう。
「私を平民に落としてください。」
少女はそう言った。
貴族にとって平民に落ちることは屈辱となる。だから、判決としては悪くないだろう。
3日後。少女の願いは叶えられた。
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望み通り平民に落ちることが出来た。今日から頑張ろう。
第一王子が優しい人で良かった。
私の親の評判は落ちた。これからは娘を娘の使用人として扱い、挙句の果てにその娘に大事にしていた娘を焼かれた、問題のある家だと思われるだろう。これで公爵家だというのだから、どうかしている。
いずれ、あの家族を見返してやる。そう思ったとき思い出した。そう言えば、私は笛が得意だった。妹とは違い、努力はできる。なら、努力を頑張れば…。
楽団に応募した数日後、通知が来た。是非入ってください、という内容だ。
嬉しかった。始めて実力が認められた。私は報われたのだ。
楽団ではがむしゃらに頑張った。幸いお金は奪ってきたままだ。何も言われなかったのには驚きである。このときは妹に感謝した。これが最初で最後だろう。まあそんなわけで住む場所には困らなかった。そして、楽団で給料は入ってくる。何も問題がない毎日だった。
毎日毎日練習した。正直才能はそこまであるわけではない。だけど、努力では誰にも負けないようにしたい。そうでないと自分の元からの才能に甘えていることになる。それでは妹と同じだ。そうは絶対になりたくない。その一心で、練習をし続けた。
かなりの頻度で舞台はある。少しずつ、難しいものを任されるようになった。それも、嬉しかった。
あの家を出て…平民になって正解だった。心からそう思った。
そして…
「今から、我が楽団による演奏を行います。曲目は…」
そう団長が言うのを私は隣で聞いていた。
今日は、第一王子に即位による戴冠式が行われ、それに伴い多くの楽団が呼ばれているのだ。そして、今、私は副団長にまで上り詰めた。実力もある程度は身についていると思う。だけど、それ以上にその努力が認められた。みんなは私を見習ってくれてより練習し、それを見た私もより練習する。そういったいいサイクルがこの楽団には回っていた。
今日は全家が呼ばれている。そう、つまり私の両親も妹も呼ばれている。そう思って。私は団長に少しだけ無理を言って見せ場を作ってもらったのだ。これで、堂々とあの家族に見返せる。
ピローロローローピーーロー
見せ場は無事に終わった。そして、公演は大盛況のうちに終わった。今日は、いろんな他の素晴らしい演奏も踊りも見ることができ、とてもいい1日になった。演奏のとき、私の両親も妹も驚いているのは確認できた。まだ少し物足りないけれど…。悔いはない。
「おい!」
「あらミアマ、一体何の用?それにしても醜くなったわね。」
王宮に打ち合わせで一度言ったあと、手紙が届いた。送り主は第一王子…いや、今日から国王だ。わざわざ私がいるのに気づいて、届けてくれたらしい。主にミアマと両親について。だけど、第一王子には悪いけれど、私はその情報はとっくに知っていた。ここは都。噂はすぐに広がっていく。
まず、公爵という地位は妹に譲られるときに降格されるらしい。あのときは外面はしっかりとしていた妹も、今では物にあたり、近隣の住民は怯えているそう。信頼もクソもない。そして、降格に伴い領地は消え、その領地は信頼できる家に分けて渡すことが決まっているらしい。いいざまだ。
「誰のせいだと!」
「あぁ、違うわね。もともと性格から醜かったわ。まあ顔の醜さとマッチしていていいんじゃないかしら?」
「呼び捨てにするな!わたくしは公爵令嬢よ!」
「あなたも努力すればよかったのに、ねぇ?おごらず昔のまま、素直に生きていれば…。そしたらこんなふうに王宮に来れることもあるのよ?」
「だから誰のせいだと!」
少なくとも私のせいではない。
「それ以上落ちこぼれたくなかったら大人しくするのがいいわよ。今からでも真面目になれば…あぁ、もう手遅れですね。」
妹はさらに、私をいびれなくなったからか、地位の低い貴族までもいびり出したそう。
「死ね!」
「お前を捕らえる。」
「どうして!」
「連れて行け。」
当たり前でしょう。妹の行動は貴族の権威を貶めるものだった。そして最後に放った言葉。妹はきっと何も学んでいないのだろう。それとも学んだのに忘れてしまったのかは知らないが、この国では貴族は人の「死」を願うような言葉は放ってはいけないとなっている。そして、それを言ったものは問答無用で牢屋行きだ。
「ありがとうございます。」
騎士団の方にお礼を言う。
「いや、当然のことをしたまでです。そして、さっきはタイミングが良かった。」
「できれば、両親も教育不足として牢に入れてもらえないでしょうか?できれば妹と同じ牢屋がいいわ。3人で惨めにずっと喚いているのを見るのなんて、面白そうね。」
「えぇと…あなたがあの家の長女ですか?」
「えぇ、長女だったわ。」
「分かりました。会にかけてみます。」
「ありがとうございます。」
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最近のとある公爵家の行動には目に余るものがあった。
妹が姉に火傷をつけさせられて数年が立ち、あの家の評判は落ちるばかりだ。話によると、下位の貴族をいびる、家からは物を壊す音が聞こえる、叫び声が聞こえる…。
確証的な証拠が掴めなかったから、今までは野放しにしていた。
そして、そんなときに私が国王を受け継ぐことになった。そして、その戴冠式には、最近人気がうなぎ登りになっている楽団も呼ばれた。そして、その中にあの少女だったと思われる人物がいた。
楽員の名簿を見ると、サラという名の副団長がいた。きっとあの少女だろう。そういう確信が芽生えた。
なんということだろう!優秀だとされてきた妹があのように落ちこぼれ、逆にないものとして扱われてきた姉が今は人気の楽団の副団長だとは!
彼女の音は、我々貴族に、不意に癒やしを与えてくれた。貴族の殺伐さも、その音を聞いていたら和らいだ。しかし、その音はまっすぐなにかに向かっていた。
私には分かった。これは彼女の家族に向ける憎しみだ。
だけど…憎しみを思いながら吹かれた音が、我々貴族に癒やしをくれるとは…。なんと不思議な音色だろ
う!
素直に感心できた。
だから、彼女の家族だったものに関する情報を送った。
そして当日。
「死ね!」
何事かと思った。
今日は私の戴冠式であり、何事も問題は怒らないほうがいい。だけど、まさか暴言が…しかも最悪の部類の暴言が吐かれるとは…。想像していなくて戸惑う。
見ると、その言葉を放った令嬢はミアマだったようだ。
後から報告が来た。
サラは、両親もミアマと同じ牢に入れるように頼んだそうだ。理由に関しては…はっきりとは伝えられなかった。多分あまりいい類のものではないのだろう。
そして、そのとおりに決まった。
3人の罰は、死ぬまで牢にいるか、奴隷になるか。しかし、実の姉が牢に入れることを望んだため、牢の方になった。
細かい罪状はどうでもいい。みんなあの家族にはイライラしていた。ただそれだけだった。
---
「家族を訪ねに来ました。」
「私が案内しよう。」
そう言って出てきたのは第一王子…今の国王だった。
「こんなことでご足労いただくなんて…」
「構わない。あれの扱いは慎重に行うべきだろうし。」
「すみません…」
申し訳ない。私が何かを言っても何も変わらなかっただろうが、やはり申し訳なくなる。
「ここだ。」
「ありがとうございます。」
ーコンコン
「誰?」
「私です。」
「ふざけんな!お前のせいで!」
あぁ…全然反省していない。
「あら、牢でも楽しめているようね。だったらこのままで良さそうだわ。心配して損した。」
「はぁ!?誰もお前の心配なんて欲しがってない!それより出して!」
昨日からずっと考えてきたセリフを言う。
「あらら…お可哀想に、こんなにも惨めになって…」
「は…!?」
その絶望の表情を見れただけでも今日ここに来て良かった。
おそらく、今の言葉はあの人達にとって、私に絶対に言われたくない言葉だったから。だから、効果があった。
「最後のは良かったな。」
「ありがとうございます。」
あの第一王子…いや国王にもミアマはああいう反応を求められているたのなら、なんとも思わない。
情けをかける余地もない。
そして、私はまた街に戻った。
これからも妹の…いえ、もう妹ではない…ミアマのようにならないように、これからも努力はし続ける。
今日、あの表情を見れたことで過去は吹っ切れた。
これからの私の未来は、私が諦めない限り、きっと明るい。