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死者列車
この日、俺は電車に乗っていたんだっけな。目的地まで時間があったのと、前日徹夜したから、少し寝た。列車の揺れも相まって、中々心地良かった。
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気付けば、目的地の五つ手前の駅まで来ていた。ゴトン、と音を立てて走る列車。考えることも無くボーッとしていると、アナウンスが鳴った。
「接触事故がありましたので、この列車はしばらく停止いたします。復帰の見込みはー」
はぁ。まだまだ時間がかかりそうだ。そう、落胆していると、他の車両から、女性が入ってきた。黒髪ロングで顔立ちも良い。美人とはまさにこの事だ。
「あのぅ、すいません。」
その女性は俺に声をかけてきた。
「えっと、どうしました?」
突然声をかけられ驚いた。俺らしくもない敬語だ。
「ああ、良かった。話せる人が居て。お隣、座っても?」
「あ、どうぞ。」
周りは誰も座っていないのに、どうしてこの女性は隣に座ってきたのだろう。
「えっと、お名前は?」
彼女はそう言ってきた。誰かに名前を教えるなんて色々とダメだが、接触事故でしばらくは暇だから、と、名前を言う。
「俺・・・は、|霊山永楽《レイザンエイラ》って言います。それこそ、貴女の名前は?」
「レイザンエイラ君ね。ふぅん、いい名前、じゃない。私は・・・|零夕《レイユ》とでも呼んで。」
「レイユ、か。不思議な名前ですね。」
「そうかしら。そう言う人は少ないの。それより、貴方の名前はどんな字なの?」
「幽霊の霊、に山で霊山、永遠の永に楽しいの楽で永楽です。」
「へぇ、中々聞かない名字ね。面白いわ。」
本当に面白いと思っているのか?という疑問はあったが、暇潰し程度にはなっているので聞かなかった。
「面白い話も何も出来ないわ。何かあったかしら。」
というかこの人敬語はどうした?最初は敬語だったよな?
「ああ、そう言えばこんな話があったかしら。永楽君は知ってる?《《死者列車》》の話。」
「死者・・・列車?」
「そう。名前の通り、そこには死者が乗っているの。でも、たまに間違いで生きている人、生者が乗ってしまい、事故が生まれる。そして、さらに生者の被害を増やしてしまう。なんて言ったおとぎ話よ。実際にそんなものがあるなんて有り得ないもの。」
そう語る彼女は少し馬鹿にしているよう。まあこの話も中々に面白い。ただのニュースを淡々と見ているより彼女・・・零夕の話を聞いている方がよっぽど良さそうだ。
「良いわね、話し相手が居るっていうのは。」
「わざわざこの車両に来なくても、他の車両に人は居たんじゃないか。」
「そんな都合良く人は居ないわよ。まあ暇そうだったからね。理由はそんなもの。」
零夕は立ち上がって言った。
「この車両ばかり見ていてつまらなくなってきたわ。他の車両を見てきましょうよ。」
俺の手を引き、無理矢理連れて行く。まあ今は停車中。少しぐらいなら良いだろう。それに、何かあったら**《《この車両に戻ってくれば》》**どうにかなるだろうしな。隣の車両へ繋がるドアを開け、零夕と共に移動する。
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「ううん、何か空気感が違う気が・・・しますね。」
「わざわざ敬語なんて使わなくて良いのよ。普通に喋って。」
「じゃあ、遠慮無く?」
それにしても、同じ列車だから変わらないな。零夕は分かって移動したんだろうな?列車の端から端まで歩いて来たが、特に何かがあるような感じはしない。
「じゃあ、次の車両に行くぞ。」
そう、言った所で、
『まって』
「!?」
「永楽君、何かあったの?」
「いや、別に。」
気のせい・・・だよな。ああ、大丈夫だ。徹夜のせいだ。
『みえてるんでしょ』
「っ・・・。」
『むししないで』
「ガチャ」
『まって』
『いかないで』
『ひとりに、しないで。』
「・・・ごめんな。」
「どうしたの?永楽君。」
「いや、独り言だよ。」
この列車、何かがおかしいのか?・・・まあ徹夜のせいだ。きっとそのはずだ。
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「何か良い匂いがするわね。何かしら。」
「花の匂いなのか?それっぽいな。」
「ええ、きっとそうね。それにしても、何処からなのかしら。」
この車両には花が敷き詰められているぐらいに強い匂いがする。こういうのは苦手だ。頭が痛くなる・・・。
『お花は要りませんか?』
優しい青年の声が聴こえてくる。
「お代は?」
『勿論タダで差し上げます。』
「それなら、一輪頂こうかしら。」
『・・・ありがとうございます。それではこちらを。』
そう言って青年は零夕に花を渡す。
『あなたにピッタリな、赤い彼岸花です。』
「見て、永楽君。中々綺麗じゃない?」
「ああ、そうだな。というか、零夕。話せる人が居たのにどうしてここに居なかったんだ。」
「いえ、私がここに来た時には花売りなんていなかったわよ。」
「は、どういう事だよ。」
気付けば、零夕の前に居たはずの花売りの青年が居ない。
「何だ、これ、どういう事だ!?」
「そんな、驚く事も無いでしょう。」
確かに、冷静さを欠いていたな。少し息を吐き、心を落ち着かせる。
「この車両の事は忘れよう。零夕、次に行くぞ。」
「永楽君、度胸はあるのね・・・。」
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「って、普通の電車の車両じゃないか。」
人が十何人か乗っている普通の車両。スマホを見ている人も居れば外を眺める人も居る。
「この彼岸花は綺麗ねぇ・・・。」
「零夕、人にぶつかるから止まってくれ・・・。」
「?永楽君、何か言った?」
「だから止まってくれって・・・!?」
立っている人の体をスルリと抜ける零夕。その立っている人は、そのままスッと消えてしまった。
「え・・・?」
その瞬間、
『ああ〇〇!今日も元気にやってるか?』
『――さん!おはようございます!頑張りましょ!』
『大丈夫だからさ!ほら!笑顔笑顔!』
『こっちに来なさい。ふふ、気にしないで。ほら。』
「ーーっ!!」
急激に誰かの言葉と、その映像が頭に入ってくる。それは余りにも多く、濃いものだった。
「痛ぇ・・・。」
ズキズキと頭が痛む。全体がじわじわと侵食されていくような気が・・・。
「永楽君大丈夫?ゆっくり息をして。」
『あはは、そんな事無いよぉ。』
『もー、派手にやってくれたな?』
『別に、そんな褒めなくて良いからさ。』
「フー、フー・・・。」
まだ痛む。頭に何かが刺さった様にも感じる。
「永楽君、この車両を出るわよ!」
零夕が俺の手を握る。グッと握られ、少し安心感を覚える。
『ねえ!』
「何だ・・・よ。」
『どうして貴方はここに居るの?』
「家に・・・帰る為・・・だ。」
『それって、本当?』
「・・・?」
『貴方は、本当に家に向かっているの?』
「家に帰るんだから・・・当たり前、だろ。」
『へえ、ウソツキだね。』
「・・・痛って!?」
余りに痛みが限界を超え、そのまま倒れこんでしまった。
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「ーー君、永楽君?」
「・・・零夕。」
「ああ、良かった。大丈夫なの?」
「まあ、もう痛くは無くなったな。」
さっきまで感じていた痛みはもう無くなっていた。それこそ、何かが抜けてそのまま取れたような。
「はぁあ。貴方をここまで運んで来るのは疲れたのよ?」
「・・・ここは最初の車両か。」
「ええ。おかしな事が無かったのはここだけみたいだし。」
「・・・なあ、零夕。」
「どうしたの?永楽君。」
「あの車両でさ。」
「ええ。」
「誰かが聞いてきたんだ。どうしてここに居るのか、と。」
「ええ、そうなのね。」
「俺は、家に帰るため、と答えた。だが、ヤツはウソツキだと言った。」
「・・・。」
「そして、今思い出した。この電車に乗った理由。」
「・・・。」
「俺は、死者列車を、知っている。」
「・・・そう。」
「そして俺は、その生者、だ。」
「どうして分かるの?」
「死んだ覚えが無い。この列車には普通に乗ったはずだ。」
「・・・。」
「起きた接触事故は俺のせいだ。そのせいで他の人も巻き込まれる。だから、俺はここで降りる。」
「嘘、ここから降りるなんて・・・!」
「俺が、またここに戻って来たら、面白い話、聞かせてくれよ?」
「・・・ええ、そうしましょう。そして、これ。」
零夕は何かをこちらに渡す。
「赤い彼岸花、か。」
「また会う日を楽しみにしているわ。」
「ああ。それじゃあな。」
ガタンッと音を立て、窓から地へと飛び降りた。
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貴方達は、死者列車というものを知っていますか?死者が乗り、生者が事故を起こす。そして被害が広がる。生者が乗るだなんて有り得ません。そう、あの男以外は。
終わったー!!!三千文字余裕で突破してます!こんな長く書けたの初めてですよ!マジで全然分からんわって感じですけど、うん、最後はもうご想像にお任せします!はい!