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甘い毒殺
彼が笑うたびに、心臓の奥が痺れる。それは、致死量の毒を少しずつ流し込まれているような感覚だった。
「なあ、聞いてる?」
無防備に俺の肩を叩く、その細い指先を見つめる。その体温すらも疎ましく思えるほどに、こいつのことが大嫌いだった。嘘をつくとき、右の眉がわずかに上がる癖も。コーヒーにこれでもかと砂糖をぶち込む味覚の幼さも。誰にでも分け隔てなく向ける、あの眩しすぎる笑顔も。そのすべてを、俺だけのものにできないと知っているから。
「…聞いてる、どうせまた振られた話だろ」
「あはは、なんでわかるかなあ、お前は」
いつだって誰を好きになり、誰に傷つき、俺のところに逃げてくるのかまで見つめているから、わかるに決まっていた。いっそ、嫌いになれたらどれほど楽だろう。こいつの声を不快な雑音だと思い、その顔を二度と見たくないほど拒絶できれば、こんなに苦しい夜は来ないだろう。彼が酔った勢いで俺の膝に頭を乗せて、シャンプーと微かな酒の匂いがふわりと香る。俺の手が、意志に反して彼の柔らかな髪に触れる。
「お前、本当に嫌な奴だよ」
呟いた言葉は、自分への呪詛に近かった。大嫌いになって、この執着から解放されたい。けれど、髪を撫でる指を止めることはできなかった。彼が寝ぼけたように俺の服の裾を掴んだ瞬間、俺の胸は嫌悪感が追いつかないほどの熱量で満たされる。ああ、今日も駄目だった。嫌いになりたいほど好きなのに、俺はこの猛毒を喜んで飲み干してしまう。