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ショートショートとかたっぽの手袋 前編
雨が降ると、じめじめして、嫌だ。
それは本好きのわたしだってそう。せっかくの本がかびたり、湿気でだめになってしまう。
傘をさして、一人道をゆく。こういうときは境界の図書館に行くに限る。あんなにたくさんの本が置かれているところが、たとえ茨だらけでも嫌いになるはずなんてない。
帰ってランドセルを放り投げ、境界の図書館へ行きたいと念じる。
「危ないっ」
危うく借りてた絵本を忘れるとこだった。
「じゃ、改めまして…」
わたしは念じる。境界の図書館へ行きたいと___
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「来たの、良美」
「フーク、ログ、これ返すわ」
返却手続きを終えた本は、ふわふわと元の場所へ戻っていくらしい。
「良美、来てくれない?」
「どうしたの、フーク」
「『本あらし』が来たの。本に入り込むことのできる性質を利用して、物語を改変したり、物語中のお金を持ち去って不正に利用する犯罪よ。これは『全世界共通境界図書館法』に違反する、最も重い罪。でも、なかなか発見しづらいの。能力を持つ本に入り込めば、能力をコピーして不正に利用することができるから。そういう『本あらし』から図書館を、利用者を、本を守るのが図書館の番人兼司書の役割なの」
「そうなんだ」
それより、全世界にこの不思議な図書館があるのが驚きだ。
「この図書館、全世界にあるんだ」
「そうよ。1000万は超えているかな、わかんないけど」
「1032万4302件ダナ」
すかさずログが訂正した。
「サッキフークガイッタ犯罪ハ『全世界共通境界図書館法』第29法ニ違反スル罪ダ」
「そんなにあるの」
「モットシリタケレバコノ『境界図書館全書』ヲ読メ」
「へえ」
重そうで分厚そうな本。
「その『本あらし』はどこにいるの?」
「被害が出たのはこの『激選ショートショート 冬の冷たい物語』の『第10話 冷えたかたっぽ手袋』。ネタバレはいいかしら?」
「いいよ」
その本は読んだことがある。
「|木葉《このは》が落としたかたっぽの手袋を、想い人である|真《まこと》が拾って展開される恋物語。でも、別の人に拾われているの」
「ええ!でも、なんで今すぐ対処しなきゃいけないの?」
「ほうっておくと現実世界にもこういう影響が出るから」
「へえ」
「さあ!行くわよ!」
「え!?」
テンポよく、フークは飛び込んだ。わたしも飛び込んでみる。
そこは、一面の銀世界。