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【読切】ヴィラン
「はあ、はあ、はあ、……」
僕は視線を上げる。
建物建物建物建物建物建物建物建物建物建物空月空空建物建物建物建物建物。
その迫りくるような狭さに、どうしてか安心してしまって、また走り出した。
「いたぞ! あそこだ!」
チュン、と着弾する音。
走った。
ピーポーピーポー、とどこかで救急車が行く音。
走った。
なんで。なんで。なんでこんなことをしているのか。
……知らねえか。
どれだけ走っただろうか。
まだやつらの音は止んでいなくて、僕は病的なまでの反射で、駆け出す。
カンカンカンカン、と誰かが螺旋階段を登る音。
やがて僕は屋上に辿り着いた。
ガシャンとフェンスに突っ込むように駆け抜けて、振り向く。
そっと、フェンスの歪みを隠すように、手を預けた。
「はあ、はあ、……いんならさっさと出てこいよ、卑怯者」
屋上への出入口へと声を投げかけると、やつは出てきた。
にたり、と気持ち悪い笑みを浮かべている。
出てきたのはひとりだけ。ナメられているな、完全に。
「全く、そんなに逃げ惑わなくても、私は手荒な真似はいたしませんって」
チッ。僕の舌打ちが闇夜に溶け込む。
「申し訳ないとは思っていますよ。あなたに、何もかもを背負わせたこと。今一度謝罪します、申し訳ございませんでした」
42度の見え透いたお辞儀に、僕はさっきよりも大きな舌打ちをした。
「チッ、うるっせーな、別にそんなんはいらねえんだよ、クソが」
やつの靴先は、とってもお洒落な錆色をしていた。
僕は下からやつを睨めつけるようにして
「大体、ならなんで僕を追ってくんだよ。武装したいい大人が、総力挙げてよ」
大人気ねえ、と僕が吐き捨てると、
「なぜですか? ほしいものがあるなら、やりたいことがあるなら、いらないやつがいるなら__」
チラ、と一瞬だけ僕の赤黒い服を見て、
「死力を尽くすのが〈|正義《ヒーロー》〉でしょう?」
やつは、不思議そうな、大変ムカつくきょとん顔でそう返してきた。
「は」
僕は一笑する。
「ざっけてんじゃねーよ、マジで。はあ?」
僕は一蹴する。
「だったらてめーらが僕に対してするべきは謝罪じゃなく感謝だぜ__〈|悪《ヴィラン》〉がいて初めて、〈|正義《ヒーロー》〉が成り立つんだからよ」
差し込む月光を背に、僕は不敵に笑った。
にたり、と最後まで気持ち悪い笑みを浮かべたままで、やつは言った。
「それはそれは。ご苦労様です」