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#20 負けるな!リレー大会のお悩み
11月の初日は、楠木山小学校のリレー大会。1年生から6年生がごちゃ混ぜになって、5チームに分かれてリレーをして、競う。2限たっぷり使う、運動会のリレーバージョン、って感じだ。
わたしはBチームのアンカーという、重大な役割がある。なんでアンカーなんだ、と抗議しようにも、先生たちが決めたことなんだから仕方ない。
「じゃあ、各チームの…えーと、名前?同じチームの子を確認しておいてくださいね〜」
ゆるーく言ってるけど、割と最後のリレー大会で真面目なんですが。
ちなみに同じチームに知り合いはほぼいない。宙はAチーム、心葉はEチーム、美玖はDチームだ。見覚えのない名前がずらりと並んだ名簿を眺め、ひとつだけ記憶が微かにあるものがあった。
|白石音暖《しらいしのの》。弟が足が速くて、いつも負けてしまう…そんな子だったっけ。
よし、これは先生の粋なはからいなんだ。解決するか。
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「音暖ちゃんっています?」
音暖ちゃんがいる教室へ向かって行くと、白に黒い襟、ピンクのリボンをつけた子が駆け寄ってきた。黒髪ロングの毛先は白い。白いニットを着てるところを見ると、やっぱり寒くなってきたんだろうな、としみじみ感じる。
「あ、はい!白石音暖です!」
「わたしは大橋結花って言うんだ。リレー大会、Bチームだよね?わたしも同じなんだ。突然だけど、弟に負けたくないっていうのを聞いて、わたしも一緒に走る練習したいなって思ったんだ」
…あーやばい、絶対理解してないよね…
「あ、やっぱいいや。ごめん忘れてね。わたしは走るのが苦手なんだけど、みんな断られちゃったんだ。一緒に練習してくれる?」
「あ、わかりました。運動いやだけど、一緒だったらなんとか!」
「よし、頑張ろう!」
…これなら自然だよね?ゴリ押しじゃないよね?
そんなふうに自己暗示をかけながら、目の前の少女に「次の昼休み校庭のブランコ集合で!」と言っておく。
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2年生の体力をなめたら痛い目にあう、というのは今わかった。「一緒にトラック1周、まず走ってみよっか!」と言ってみたら、綺麗なフォームでどんどん抜かされていく。にこにこしながら、「ほら、やっぱ遅いなぁ」と自分を振り返っている音暖ちゃんを見て、やばいと思う。
「終わった…」
ヒイヒイ言いながら音暖ちゃんの方へ行くと、「あ、結花じゃん」と聞き馴染みのある声がした。
「あ、宙…助けて、2年生の体力がえぐい…」
「結花らしくないな、語彙力皆無なんて」
「一緒に走ってあげて…フォームはめっちゃ綺麗だから…」
そう言って、ぐびっと水筒のお茶を飲み干す。困惑した宙は、「じゃ、取り敢えず走るか…」とおしゃべりしながら走っていく。体力つけなきゃやばいかもしれない…
毎日音暖ちゃんと走っていると、だんだん体力もついてきた。音暖ちゃんも「弟より速くなったっ!」と言ってもらえていた。
次第にリレー大会の練習が本格的に始まっていった。
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「今日は11月1日、楠木山小学校リレー大会です。勝っても負けても楽しめるように頑張っていきましょう」
リレー大会実行委員会のあいさつがあり、午後からのリレー大会は始まった。1番最初は知らない子だった。
「位置について、用意」
パンッという音が鳴り、実行委員の横にいた第1走者が走り出した。次の第2走者がレーンに準備する。
第3走者は、2年生が務める。第2レーンに、音暖ちゃんが立つ。自身ありげだった。音暖ちゃんは構えて、テイクオーバーゾーンで助走をつける。5年生からの青いバトンを、パシッと受け取り、全力ダッシュする。開いていた幅がどんどん大きくなり、あっという間に暫定1位になる。
**「頑張れーーーっ!!!」**
立ち上がり、大声でそう叫ぶ。黒い髪をさあっとなびかせて、4年生にバトンをしっかりと渡した。
「結花さんっ、やりきりましたっ!」
「すごいよ音暖ちゃん!練習の成果だね!よし、最後はわたし、頑張るね!」
汗をかいている音暖ちゃんの水筒を取り、もたせる。お茶を飲む音暖ちゃんの隣で、わたしはまた応援し続ける。
あっという間に6限目の終盤になった。Bチームは少しAチームに抜かされていた。あと少しで、わたしの番だった。
ずいぶん冷えていて、長袖長ズボンでも少し寒い。体操服以外に、カーディガンでも羽織れば良かった。息は透明だが、あと少し冷えたら白く見えるだろう。
「結花さんっ、頑張ってください!」
音暖ちゃんは微笑みながら言った。Aチームは、Bチームと並ぶ程度にはいる。まだ挽回できる。
そう思いながら、レーンに立った。隣に宙がいた。
「すごい偶然だ、神様が仕組んだみたい」
「絶対勝つからな」
そう言った後、前の走者がだんだんとこちらへ来ていた。ゆるやかな助走で、テイクオーバーゾーンを走っていく。パシッといういい音がしてバトンを受け取った後、一気に走り詰めた。カーブを曲がり、どんどん走る。音暖ちゃんと何度も見た景色は、いつもよりはやく流れる。とにかく無我夢中で走った。
目的のテープがどんどん近づいていった。最後の力を振り絞って、前だけを見て行く。スピードを緩めることなく、わたしはテープを切る。
わあっという声援とともに、わたしはフラフラになりながら戻る。みんなが「1位だよっ!」と喜ぶ様子を見て、ようやく1位を実感する。
「音暖ちゃんが引き離してくれたからだよ、追い抜けたの」
「本当ですか?でも、一緒に練習したからです!」
こうして、わたしはリレー大会の悩みを解決したのだった。
火照った体に、涼しい風がさっと頬を撫でた。
アオハルを書きたかったらこのシリーズに任せとけばいいって感じがする(?)
2293文字、多い。