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蓮の花
蓮の花あんまりよくよく見たことなかったけど、結構綺麗よね
田舎生まれ都会育ち、都会のうるさい人混みが大嫌いな私。会社に行きたくない理由は、道中にある某交差点がとにかくうるさくて嫌いだから。同僚には、よくそんなんでやってこれたね、って言われた。
私は、この都会で夫を見つけた。
人混みに酔って気分が悪くなった私を精一杯支えてくれた通りすがりの男。それが夫だった。その後は合コンで出くわしたり、また助けられたり、助けたりして、互いに惹かれ合った。
でもこの頃、彼の様子がおかしい。
結婚3年目。続かない人達は長くてもここで終わってしまう。私達も、続かない人たちなのかな。
彼の不倫は見え見えだった。
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「早苗、旦那さんに突き詰めてみたら?不倫してるんじゃないの?って。で、慰謝料たんまりもらって別れてやればいい!」
同僚の雪が言う。
雪は、中学からの大親友で、惚れっぽい性格をしていた。彼女に理性というやつがなければ、誰彼と不倫しまくっていただろう。
相手が既婚者であれど、恋の気持ちは止められない、だそうだ。
「いや、雪みたいに惚れやすくないから、流石にこの年からの再婚は無理だよ。」
私惚れやすくなんかないよ!と雪が膨れる。さらに彼女はいい方法がないかと悩み、それからピンときた顔をした。
「田舎に帰ってやる!とかは?」
なるほど。
おバカな雪にしては名案だ。ただ、向こうが考えた末離婚しようなんて言ってきたら…。保留にしとこう、と言おうとしたのを見計らったように、雪は続けた。
「離婚しようって言われた時はそん時に考える!そんなの時間の問題だもん。いつまでもうじうじしてちゃ、何もできないよ!」
楽観的な思考の雪は、手をぱんぱんと鳴らしながら言った。それもそっか…、まあ、何とかなるでしょう。雪は興奮してうるさくなり、人が集まってきてしまったので一旦話題を止めた。
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私が田舎に帰ると言った時、夫は何を察してか花をくれた。蓮の花だ。どういう意図だろうか。
「気づいてたんだな。早苗。」
「止めないのね。」
「…一人になって、よく考えよう。」
私が田舎に発つとき、彼は見送りにも来なかった。
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家は書院造りの昔ながらの屋敷だった。家のそばには池があり、蓮の花が皮肉にもいくつか浮いていた。
母親は老人ホームへ行き、父親は入院していたので、だれもいないだろうと屋敷の中に入った。でも、そこに人影はあったのだ。
「誰ですか?」
「あれ、早苗姉、どうしてここへ?」
従弟の由くんだった。10歳も離れた弟みたいな男の子。相も変わらず綺麗な顔をしていた。高く通った鼻筋、切れ長の目、やや童顔の彼は、実年齢より3歳ほど若く見られることが多かった。20歳の−3はでかい。
居間まで通してもらって、話をした。
「由くん、お久しぶり。旦那が浮気してるっぽくて、帰ってきちゃった…」
「…離婚は?」
「まだ。」
「その、手に持ってる花、何?」
「蓮の花よ。帰ると言ったら、旦那に渡された。そういえば、由くんって花に詳しかったでしょう?…花言葉、知ってる?」
最後の言葉は、声が震えた。
大体はわかっていた。別れに関することがつけてあるんだろう。
由くんが心配そうに私を見る。
「大丈夫?」
「大丈夫!」
蓮の花をそっと机に置く。由くんには、笑いかけてみせた。が、きっとそれも、引き攣っているんだろうな。
「清らかな心、神聖、休養、雄弁、沈着…離れゆく、愛。」
「っ…」
「でも、旦那さんも、まだ早苗姉に気はあると思うんだ。
蓮の花にはね、他にも、花言葉があって。」
「…うん。」
正直、聞きたくなかった。きっと、言い訳のような言葉が…
「『助けてください。』」
由くんの声に、旦那の声が重なった。
「考え過ぎかもしれない。でも、きっと…不倫を、強要されたとか、脅されたとか。あるのかもしれない。話し合ってみてよ、そして、信じなよ、彼のこと。」
泣きそうになったけど、情けなくて泣けない。でも由くんは、気づいてくれた。
「泣いてもいいよ」
震える私の肩を抱く彼の体は、何故か、どうしようもなく切なかった。
気づくと、彼も泣いていた。
「どうしたの?」
「…たったさっき、好きな人の恋を、応援しちゃったんだ。苦しいや。叶わない恋って。」
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あれから1週間。都会に帰ってきた。
今日からは、みっちり話し合ってやるんだ。夫は、助けてほしいのかもしれない。ホントは不倫なんてしたくないのかもしれない。
私はいつものうるさい交差点に紛れていった。
花シリーズ展開でーす🌸
一応伏線あり、気づいたかな(笑)