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2-1
遠き日を思い出す迷ヰ犬。
少年は、もう一つのカプセルを握り締めていた。
ルパンを出ると、そこには誰もいなかった。
先程まで太宰君と安吾君がいたことは、鏡で見ていたから知っている。
彼らが昔のように笑える日は来るのだろうか。
否、来ないだろうな。
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--- 2-1『少年と濃霧に包まれた街』 ---
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ヨコハマを離れ、街全体を見渡せる高所へとやってきた。
正確には鏡の上に立っているんだけど、それはどうでもいい。
「……はぁ」
霧、霧、霧。
真っ白な霧が街を埋め尽くしていく。
本来なら、ここまで高所に来ていれば夜景が綺麗なはず。
でも霧に呑み込まれて何にも見えない。
「これが澁澤龍彦の異能力、か。前回は全く関わりがなかったけど、どうして自殺するのかな」
個人的には、霧に触れるだけで自殺するわけじゃない気がするんだよね。
龍頭抗争のとき、自殺したのは何故か異能力者だけだし。
『ルイスさん』
「やぁ、安吾君。霧に呑まれる前に特務課へ帰れたようで何より」
僕はヨコハマへ、鏡の上を歩いていく。
「中ではどれ程の異能者が犠牲になっているかな?」
『……分かりません』
「中とは連絡が取れていない感じか。情報ありがとう」
あと少しで、霧に触れてしまう。
そんなギリギリのところで僕は地上へと降りた。
「今回の事件、太宰君が一枚噛んでるでしょ。僕一人じゃ解決できなさそうなんだけど」
『……ルイスさん』
「無理だよ」
僕は即答した。
多分、澁澤龍彦を止める方法は一つしかない。
そして僕は、依頼だとしても遂行しない。
「排除なんて出来るわけがない。皆には悪いけど僕はこの事件で役立てそうにないよ」
『では、別の依頼をさせてください』
安吾君は優しく云う。
『少しでも被害を減らし、探偵社員として事件を収束させてください』
「……僕、探偵社員じゃないんだけど」
『そういうことにしてありますよ、ちゃんと』
どうやら、福沢さんに聞いたらしい。
まぁ、安吾君なら良いか。
そんなことを考えながら僕は息を吐く。
「一応鏡は手元に置いておいて。連絡できそうならする」
『……ご武運を』
さて、と僕は知っている探偵社員の電話に片っ端から掛けてみる。
やはり、霧の中にいるであろう彼らに電話は繋がらなかった。
「……準備は万端に」
ナイフや銃を予備も合わせて、戦争の時より何倍も用意する。
僕の考えが正しければ、霧の中では異能が使えない。
異能なしの戦闘をイメージしてみるけど、どれだけ頼っていたのかがハッキリするね。
「僕はこの中で自殺するのかな?」
少年は探偵社員と合流した。
迫る黒い影は、街中に響き渡るほどの咆哮を上げた。
次回『少年と獣』
一瞬見えた獣の正体は判らないけど、闇の中その瞳は光っていた。