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帚木
帚木、という言葉を聞いたことがあるだろうか。
遠くからは見える。しかし近づいてみると見えなくなる不思議な木。そんな伝説に由来して、人の気持ちの移り変わりや、会えそうで会えない人、の例えになっている。
「紫〜!」
「あ…清美」
登校時、幼馴染の|納本清美《のうもときよみ》が声をかけてきた。以前はぴりついた雰囲気だったものの、今は普通に仲が良い。
「おはよっ」
「おはよう」
清美は明るくて、ずばっと物事を言うタイプの性格だ。
それに比べ、わたし・|阿部紫《あべゆかり》は内向的なタイプで、真反対。
「そういえば、あの子はどうなったの?」
「あの子…ああ」
あの子は、確か数日前、図書室のときに出会った。
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何を借りようか。純文学もいいし、ライトノベルでもいい。そう思いながら吟味していると、何か本を読む女子が目にとまった。
2年生だろうか、それとも3年生か。何やら楽しそうに本を読んでいたので、思わず声をかけたくなった。その本は何か。お気に入りの作者は誰か。下の方にお団子を結んでいる彼女を見ていた。
取り敢えず本だけ借りておこうと思った。夏目漱石の『こころ』でも借りようか。お気に入りの作者のイチオシをまた読んでもいい。
結局、目についた新しい本を借りることにした。友人がお勧めしていたものだ。カウンターで貸出手続きを行ったあと、辺りを見回した。彼女はいなかった。
図書室は入口以外に、出る手段がない。探してみても、彼女はいなかった。カウンターは入口のすぐとなりだから、出ていったとも考えにくかった。
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「未だ会えてない。昨日は見たけれど、また駄目だった」
「借りる前にさっさと声かけたら?」
「でも、なんかいなくなってるの」
「へ〜…都市伝説?七不思議?」
「さあ?」
|安野中学校《あんのちゅうがっこう》の七不思議なんて聞いたこともないし、あんまり怖さや恐ろしさはない。
「わかんないよ」
「…へぇ」
うだうだ喋っている間に、学校が近くなる。クラスは別々だから、ここでわかれることになった。
「今日、いっしょに図書室行ってよ。わかるから」
「えぇ?まあいいけど…」
そう約束を交わして、わたしはクラスへと入っていった。
夏目が出てる時点で平安時代ではないんだよ