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No.002 助けを呼んでくる
「物も適当に集めてきたぜ。もう行くしかないぞ」
俺は筏を水につけた。
付け焼刃で付くった即席筏はトタン数枚重ねをメインとして、浮きとして丸いゴミ箱や、ドラム缶————流れ着いたと思われる————を左右たくさんに付けた廃材船だ。舵もケーブルとかを繋ぎ合わせたロープを使ってくっつけている。
俺は筏の製作を、颯真は物資の確保を行った。俺が持っていたリュックや、潰れた颯真の家からかき集めたリュック、そして、颯真の家の非常用リュックを積み込む。
正直、重さで筏が沈むか分からない。トタンに穴が開く可能性だって十分ある。
でも、それでも……
「やるしかない!」
目を見開いた俺はパドル代わりの板を掴み、渋谷の方に舵を切った。
意外な事に、関東平野へ流入する水の勢いは弱い。
軽く舵を切り、パドルという名の板で漕ぐだけですいすい進む。
「風に呷られて呆気なく沈没とかは笑い話にもなんねーからな」
小さく独り言を吐いてパドルを動かし続けた。
「あ”ー! 右腕いてぇ!」
颯真の悪態が虚しく沈んだスクランブル交差点の上に木霊した。
「で、でも、ほら! あー、あそこに光ったように見えたスクランブルスクエアがあるから! あ、あとちょっとだよ!」
夕方から奇跡的に止み間に入っている雨。しかし、また振り出し、寒い。
腕の痛みも加算され、俺の声も心なしか震えているのが自覚できる。
「——————」
「——————」
雨音で何を言っているかは聞こえないが、ビルから明らかに声がした。
子供だ。いや、俺たち同い年くらいか。
「おーい! 誰かいますかー!?」
颯真が声を張った。
「ね、ねぇ! ホントに来ましたよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「そ、そうですけど……」
「そこの人たちー! 下層はガラス割れてるから入ってきてー!」
女性の声。二人。
俺達はその声に|誘《いざな》われ、ビルの窓ガラスが割れている階から屋内に入った。
それは2026年6月10日23時12分頃の事だった。6月8日17時12分に起こった大地震からは54時間経ったころだった。
「寒ー!」
颯真がぼやきながらビルに下層に入った。
筏から飛び移った俺は雫をたらしながら、無心で筏から荷物を降ろし始めた。
「ね、ねぇ。あなた達”も”避難置いてかれた感じ?」
不意に声がした。横にはさっき、俺達をナビゲートしてくれた人が居た。
「ああ。そんなところだ」
軽く答えたところでもう一人もやって来た。
「二人?」
「いいえ。大人が3人と私達みたいなのが5人。あなた達も含めるなら7人ね」
「ふーん。ま、分かったよ。取り合えず荷物下ろしてるけど、協力してくれる?」
「勿論。私は結城姫奈。その、よろしくね」
「ああ。俺は神代里音。そこで転がってるのが桐生颯真。こちらこそよろしく」
差し伸べられた手に、少しの躊躇を抱きながらも応えた。
「にしても、あの里音が見た光はお前らが発してたのか?」
「そうですよ。割れたガラスや鏡を掻き集めて、光を反射させていたんですよ。幸い日が照っていたので分かりやすくなりましたしね。あ、紹介が遅れました。私、白凪璃々です」
会釈で返した。
そうか。生き残るために、災害後から奮闘していたんだな。
「とにかく、上の人たちに紹介するよ」
6月19日。俺達が入ったスクランブルスクエアの人数は22人に及んでいた。
そんな時、大人たちが言った。
「助けを呼んでくる。危険だから、大人たちで行く」
そう言って、ここ数日で準備していた筏に乗り込み、少しの食糧と水と共に大人10人全員が消えて行った。
夜になった。大人は依然として帰ってきていない。
考えたくはないが、見捨てられたのか?
だとしたら、俺の考えられる理由は二つ。
・俺達と暮らしてもメリットが見いだせなかったから。
・他に新天地を見つけたから。
メリットに関して言うんだったら無い。
合理的に考えてお子様抱えてサバイバルするよりも、大人だけでやった方がいい。
人出が増えても、子供を抱えるデメリットの方が明らかに大きい。
新天地を見つけたからは明らかにそうだろう。
そうじゃ無ければ、あんな少量の食糧と水では旅立たない。
ある程度の算段が付いたから出発したんだろう。
だとしても、14とか16しかいない集団を見捨てるんだろ。
人かよ。ホントに。
「なあ、帰ってきそうか?」
「全然。なんなら見捨てられたと断言しても良いかも」
「じゃあ、姫奈的に見捨てられたとしたらどうする?」
「私達で生き残るしかないでしょ! うっうう……」
暗いフロアに姫奈の嗚咽。
しゃがみ込んだ彼女の隣に、俺は軽く腰を掛けた。
「なら、頑張んないとな。この沈んだ東京で生き残るんだから」
肩に手を置いてその場を離れようとした俺を、姫奈が掴んだ。
「私が……みんなを率いる。ここに集めたのは私だから。だから……」
俯きかげんだった彼女は顔を上げ、俺を正面から見据え
「て、手伝って」
「補佐的な感じ?」
肩を竦めて答えた。
姫奈は小さく頷いて、俺の手を引っぱり非常階段を駆け上がった。
13階の水面ギリギリから駆け上がりそこは15階の旧オフィスフロア。
ここがみんないる場所だ。
「ね、ねぇ。どう説明すべき?」
「正直に言うか、ボカシて言うかだったら、正直に言ってこれからの正当性を出すべき」
「分かった」
軽く頷き、一歩前に出た姫奈は状況を淡々と説明していった。
大人に見捨てられた事、自分たちで彼から生活しなければならない事、自分が責任を持って皆を引っぱって行く話。
颯真も璃々も他の奴らも黙って真剣に聞いている。
「それで、私の補佐に、里音を」
俺の方に視線が集結した。なんか、照れる。
「まずは……物資の確認から始めようか」