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𝓮𝓹𝓲𝓼𝓸𝓭𝓮 𝓯𝓸𝓾𝓻~極楽蝶案内人~
―クロウ視点―
夜。
僕は魔軍の過去を聞く為に、1人歩いていた。
ふと顔を上げると、僕は何時の間にか、街灯も何も無い森の中に立っていた。
地図を見ると、この先にあるらしいけど···。
あれ?僕はどっちから歩いて来たんだっけ?
下を向きながら歩いていたせいで、よく分からない。
···え?いきなり迷子···?
何か目印になる物は無いかと辺りをキョロキョロと見渡していると。
僕の頭上辺りで、キラキラと輝く何かが飛んでいた。
あれは···蝶···?
今までに見た事が無い程美しく、虹色に輝いている。
蝶は、僕の目の前に来ると、まるで「こっちに来て」とでも言う様にヒラヒラと舞いだした。
···ついて行けばいいのだろうか。
クロウ「···行くしか···ないか···?」
このまま知らない場所で迷子になっているよりはマシだ。
僕は、蝶の後を追って歩き出した。
···それにしても、美しい蝶だ。
|羽撃《はばた》く度に光輝く鱗粉が降り、地面を極彩色に照らしている。
しばらく歩くと、極彩色の案内人はいきなり、蝶とは思えない程の速度で上へ舞い上がり、やがて夜の闇に溶け込んで見えなくなった。
クロウ「え···えぇ···?」
思わず呆気に取られてしまう。
ここから1人で歩けと···?
しかしその心配は無かった。
視線を再び正面に戻した時、目の前にあったのは家のドアだった。
そう。
此処が、僕が目指していた場所―魔軍の基地だった。
じゃあ、あの蝶は彼女達が飼っているペットか何かだったのだろうか。
そんな事を考えながらドアをノックする。
クロウ「···あれ?」
しかし、返事が一向に返ってこない。
留守なのだろうか?
いや、でも部屋の明かりついてるし···。
もう一度ノックをして、今度は大声で呼び掛けてみる。
クロウ「すみませ~ん!!誰かいますか?僕です!!クロウです!!」
そこでようやく、|永遠《エンダー》さんの何だか気怠そうな声が聞こえてきた。
|永遠《エンダー》「···んん···?アァ···昨日のカラスくん?アー···。鍵開いてるから中入っていいよ~···。」
そう言われたので、ドアを開けて中に入る。
まず目に飛び込んで来たのは、なんとも摩訶不思議な光景だった。
|永遠《エンダー》さんとてふてふさんは、ソファに寝転がって、ぐったりとしている。
唯一元気そうにしていた奏者さんは、テーブルに置いてあるゼリーに目を輝かせていた。
クロウ「えっ···と?」
僕が困惑していると、奏者さんがいきなりこっちを見て言った。
奏者「あ、昨日の···えっと···くろ、さん!! ようこそ!! 私達 魔軍の 基地へ!! ねぇ くろ、さん!! みて これ からふる!! この からふるの プルプル 甘くて 美味しい!! くろ、さんも 食べる?」
奏者さんは、僕の目の前に、さっきテーブルの上に置いていたゼリーを差し出してきた。
クロウ「いいの···?ありがとう!!」
僕は喜んで受け取る。
すると今度は、てふてふさんの、これまた気怠そうな声が聞こえてきた。
てふてふ「アー···クロウか。とりあえず座ったらァ···?僕ら今疲れてるからいろいろ話すの後ででもいい···?僕ら復活するまで奏者の相手しといてくんない?」
僕はますます困惑する。
"疲れた"って昨日も言ってた様な気がするけど···。
この状況を見る限り、昨日以上の疲れ方の様な気がする。
そして奏者さんだけピンピンしている。
一体何故···?
とりあえず、てふてふさんに言われたから奏者さんの相手をする事にしよう。
クロウ「奏者さん、一緒に遊んでましょう!!」
奏者「え? いいの? やったぁ♪ じゃあ 私の 部屋で 一緒に あそぼ!! その プルプル 一緒に 食べよ!!」
奏者さんに引っ張られる様にして、僕は部屋へ向かった。
―彼女の部屋は、さっき案内してくれた蝶の様に、美しくキレイだった。
沢山のカラフルが飾られている。
クロウ「キレイ···!!」
僕が呟くと、奏者さんは笑顔になった。
奏者「やった♪ うれしい!! 誰かに からふる みとめて もらえた!! やった やった♪ ありがとう!!」
手をパタパタと動かして喜んでいる。
その仕草が、なんだか可愛らしい。
クロウ「このゼリー···一緒に食べましょう?」
僕がそう言うと、今度は不思議そうな顔をする。
···?
何かしたのだろうか?
奏者「えっと その ぜりーって 何?」
···え?
ゼリーを知らないのか?
そういえば、奏者さんは、「ゼリー」とは一言も言わずに「カラフル」とか「プルプル」と言っていた。
そして、昨日から何となく気付いていたが、話し方が普通の人とは違う、カタコトだ。
これらも"過去"とやらが関係しているのだろうか。
クロウ「このカラフル。これが"ゼリー"って言うんだよ。」
溢れる疑問を抑え、奏者さんに説明する。
すると奏者さんは、表情をパッと輝かせた。
奏者「へぇ···!! これ "ゼリー"って 言うんだ!! ゼリー··· ゼリー··· 覚えた!! くろ、さん 物知り。 私 物知りの人 そんけー する!! 何でも 知ってる カッコいい!! くろ、さん "ゼリー" 食べよ食べよ!!」
奏者さんと話していると、何だか無知の幼子と会話している様で、心がフワフワした。
|永遠《エンダー》「···これでもツノくん、昔は普通の人みたいに話せてたし、知識だって沢山あったんだよ。」
クロウ「うわアびっくりしたァ!?···って|永遠《エンダー》さん!?」
奏者さんとゼリーを食べていたら、いきなり後ろから声がしてビックリした。
声の主は|永遠《エンダー》さんだった。
クロウ「それってどういう···?」
|永遠《エンダー》「サメくんが復活してからネ~。あ、僕もゼリー食べる。」
そう言うと|永遠《エンダー》さんは、僕の隣に座った。
そこからしばらく3人で他愛ない話をする。
|永遠《エンダー》「そういえば、カラスくん。此処来るの大変じゃなかった?街灯少ないし周り木しかないし。」
クロウ「いや、途中で迷子になったけど、蝶が案内してくれたんです。」
僕がそう言うと、|永遠《エンダー》さんと奏者さんは、驚いた様な顔をした。
奏者「···蝶?」
クロウ「はい。凄くキレイな···虹色に輝く蝶でした。」
説明を続ける。
すると|永遠《エンダー》さんはいきなり立ち上がった。
|永遠《エンダー》「こうしてる場合じゃない···。そろそろ話そう。」
そのまま下にいるてふてふさんに向かって叫ぶ。
|永遠《エンダー》「おーい!!サメくん!!あの蝶がカラスくんを案内したって!!」
ちょっとの間の後、てふてふさんの声も響いた。
てふてふ「えぇ!?マジでぇ!?3人共カモーン!!」
呼ばれたので、一階の部屋へと戻る。
僕達3人が座ったのを確認すると、てふてふさんは語り出した。
てふてふ「まず、僕達があんなグデーンってなってたのは、昨日の荒らしピーポーに壊されかけた店の修復作業に行って、その後また10戦ぐらいやってたから。」
···すごい体力だ。
流石だな···。
てふてふ「んで本題はここから。僕ら3人はね、クロウ。君も見たあの蝶に導かれてこの世界に来たの。君、"魔界"って知ってる?···いや、答えなくていい。僕達は、此処に来る前、つまり、魔界にいた時、"魔王軍"って言う、魔王が率いる軍隊に所属してたんだよ。···今日は僕の過去を話そう。クロウ。ここから先は、凄絶な内容だ。覚悟はいい?」
淡々と話すてふてふさん。
僕はただ一言「はい。」と答えた。
てふてふ「···そう。じゃあ···。」
そう言って、過去を語り出す。
―それは、言葉に言い表せない程深く悲しく、辛く、そして、心苦しい物語だった。
てふてふ過去解明まで
あと1話