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終、おのの
一応PG12です。
嫌だ。
そんなのは、ない。
「いち…………」
小野の振りかぶった腕が、だらんと正気をうしなう。赤が、じんわりと彼女の侍女小袖を染め上げていく。貫いた鋒も、鮮やかな赤で濡れている。
ごふっ、と血を吐く音。
見ていられない。
「小野っ」
間に合わないのはもうわかる。これで生きていることはない。いや、まだ生きていたとして、今後普通に生きられるはずがない。
なら、せめて、ひとおもいに。
長が、目を少し見開いたのがわかった。
壱は、刀を構え直した。
もう迷うことはなかった。
そしてそのまま、肩の高さで、横に流れるように右手を動かした。
ごとん。
ーーー
「壱様」
側近に呼ばれて、ふと意識が飛んでいたことに気がつく。
「お入りになられないのですか」
「いや、今入るよ」
私がはじめて、ひとをころした場所だった。
あれから四年たっているのに、あれから何度も同じことをしてきたというのに、足がすくむ。
私一人で入らなければならない。
「では」
側近が、入り口前に跪いた。
がらり、と乾いた音を立てて開いた戸は、かつてとなにも変わらない。
部屋の間取り、光の角度。あのときとぜんぶがおなじで、めまいがした。
柱が目に留まった。墨のような色が、飛び散っているのがわかる。
「ひっ……」
よくみると、赤黒い。
吐き気がした。壁に手をつき、俯く。
気がつく。その床にも、壁にも。その赤黒いしみは散っている。
「おえっ」
胃液が逆流する。もう駄目だった。
その恐ろしさが落ち着くことなんかなくて。
「壱様!」
そうやって呼ばないでくれ。壱、と呼ばれれば、いやでもあの日の彼女のこえが蘇る。
やめてくれ。
壱はそれから、本拠地を破棄した。
ーーー
「小町?」
「いい名前でしょう」
壱は、長となるにあたって、名前をあらためた。それを言えば、長、いや先代は顔を歪めた。小野とつながる名前だから。
大広間には、まだほのかに白木の香が漂っている。新築の拠点には、新頭目を前に、配下が犇めき合う。
「次期頭目となった小町である」
配下は一斉に頭を垂れる。
刀鍛冶の娘、壱は、あの日あの時にいなくなった。
ひとごろしは、彼女の名を背負って、小町として生きていこう。
2025/6/12 終
小5のときの授業中に書いてたプロットが出てきたので、それ参考になんとか仕上げました。ストーリーはプロットとほぼ変わってないはず。
素人がそんなかんたんに首落とせるかっちゅー話なんですけどね…ここは想いの力なんですよ←適当