公開中
#1 雨の逃避行
はな
1992年、都内の寂れたマンションで、|桐谷綺星《きりやあやせ》は自身の赤い血を滴らせながら床にうずくまっていた。
そう思うのも当然で、彼女の父親(|桐谷敏文《きりやとしふみ》)は彼女の双子の姉であり、中学校の生徒会長である|飛鳥《あすか》と比べたり、理不尽に怒り、何かイライラしたことがあったらすぐにあやせに当たるのだった。
そう、つまり父親にとって彼女はただの八つ当たり用道具でしかなかった。
毎晩毎晩当たっては、殴りつけ、蹴り、服や髪、胸ぐらをつかんでは突き放す。時には熱したタバコを彼女の体に擦り付け火傷を負わせる。でもこれはまだいい方で、ひどいときはカッターや包丁などの刃物まで取り出してくる。おかげで彼女の体は傷やあざだらけ。でも彼女はもう気にもとめなくなっていた。
彼女には楽しみがあった。父親や家族に隠れてボロボロのラジオから聞こえてくるアイドルソングを歌うことだった。そしてその歌声は、驚くほど美しく、狂気をはらんでいたのだった。
つづく