公開中
ep.7 過去に鎖のように縛りつく。
最近、化け物の動きが活発化していると連絡が入った。真夜中に呼び出されることも多々あった。
そんな中、凛都とシアンは本部へと呼ばれた。2人は電車に揺られ、本部へと向かう。駅から少し歩くと、大きなビルが顔を見せた。そう、ここが本部。
2人は中に入り、専用のカードをゲートに通した。これは特殊なカードで、戦闘用員のみに配布されるものだ。所持者の全ての|情報《データ》がこのカードのメモリに入っているそう。
ゲートはカードをスキャンし、ピロリンと電子音を鳴らした。カメラが姿を見せ、凛都の全体をまじまじと見ていく。「本人確認が完了しました。」といかにも機械らしい無機質な声でそれを告げた。シアンもそれを終え、中へと入る。本部は近未来的な作りになっており、あちこちにAIやロボットが備わっている。ガラス張りのエレベーターに乗り、待ち合わせの会議室へと向かう。中に入ると明日花が重厚な茶色の革ソファに腰掛けていた。
「よぉ。|凹凸《でこぼこ》コンビ。話があるんだ。座れよ。」
明日花の言われるがままに向かいのソファに座る。机には一つの資料が置かれていた。
「危険任務の依頼だ。」
空気が一気にひりつく。危険任務とは生きて帰って来れるかどうか怪しい任務だ。実際に危険任務で死んだ人も数多くいる。それくらい死と隣り合わせなのだ。
「任務地は旧英国街。」
シアンの目が見開かれた。その直後、椅子から崩れ落ちた。
はぁはぁと苦しそうに過呼吸をし、蹲る。
明日花はすぐさま駆け寄り、背中をさする。
凛都はその光景に驚きと混乱で身体が固まる。
「大丈夫か。シアン。落ち着いたか?」
明日花は心配そうにシアンに声をかけた。
シアンは苦しそうにこくこくと頷いた。
「大丈夫です。少し、嫌な過去を思い出しただけですから。心配ありがとうございます。僕のことはいいですから、続きを話してください。」
明日花は心配そうにシアンを見つめるが、話さないわけにもいかないので話を再開した。
「旧英国街に化け物『#005』が明日の真夜中に現れると本部に予告があったんだ。」
『#005』は化け物の中でも話が通じるものの一種で、かなりな正義感が強めなのか犯行を起こす際、予告をしてくる。一見、戦闘用員が有利に見えるが、ものすごく強い。人間のような見た目をしており、容姿は個体によって様々。普段は人間に扮して隠れている。唯一の特徴が耳がエルフのように尖っていることぐらいだ。
シアンも落ち着いたかみたいで、冷静に分析していた。
「『#005』って強いですが、危険任務に該当するほどではないですよね?過去にそういう事例はないですよね。」
シアンは謎に思ったのか、小首を傾げた。すると明日花は沈痛な面持ちでそれに答えた。
「事例がないからなんだよ。今回の個体はわざわざ本部に直接言いに来やがった。警備員で総攻撃したら、喰らわなかった。全身がバリアで覆われているような。その上、返り討ちにした。それでも攻撃した奴以外のは殺さなかった。本部はあいつは大分余裕があると見た。おそらくあれは特殊個体だろうと。」
特殊個体...。それは戦闘用員のように特異体質を持っている化け物のことを指す。上級位の化け物ほどそれを保有する確率が高い。
「そういうことでか。対策はとってあるのか?運が悪ければ全員死ぬぞ。」
凛都は脅すような口調で明日花に問いかけた。危険任務の中でもさらに危険な任務。全員死ぬで済めばいいが、民間人にも危険が及ぶ可能性がある。
「それは大丈夫だ。……だ。」
凛都とシアンは明日花に対策を教えてもらった。それなら勝ち目があるかもしれないが、危険が伴うものだった。
「わかったか?それじゃあ今日は解散だ。明日に備えてゆっくり休息を取ることが約束だ。いいな?」
凛都とシアンは力強く頷く。明日は危険な日となるであろう。また、シアンの過去が暴かれる日であることはまだ誰も知るよしもなかった。