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Episode4.人間不信のお嬢様が昔のことについて語る話。
思わずいじめを止めた日の夜、華夜乃はベッドに座って昔のことを思い出していた。頭が痛くなってバルコニーに出て月を眺める。今の私の強い部分はあの日々が作ったもの。しかし、同時にどうしようもない弱さも作った。
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私が生まれたときは、まだ兄が家にいて、両親は兄の教育などでとても忙しかった。だから私にかまうことができず、分家に養子として送り、育ててもらうことにした。その際、分家の見極めを兼ねたため、上から瑠璃、桜、翡翠、茜、墨と分けられた分家のレベルで、一番下の墨の家に身分を隠して送られた。私は物心ついたときぐらいから義家族に暴力を振るわれるようになった。痛くてもそれが当たり前だと思った。彼らは、外から見える顔や手、足にはキズをつけなかった。背中や太もも、腕や頭を殴る、蹴るは当たり前、ときには鞭で殴ったりご飯を与えなかったりした。それが少食の原因かもしれない。そんな日々が続き、小学校に入学する。4年生までは幼馴染の遥花と仲良くしていた。5年になって遥花がモデルを始めた。もともと彼女の家はアパレル企業だった。しかも母親は海外のモデルだった。その容姿を使い、すぐに有名になった。ただ、どこにでも馬鹿はいるもので、妬んだクラスメイトが嫌がらせを始めた。その人達は、桜の家だった。その時の私は自分の立場がわかっていなかった。遥花をかばった。その時彼女たちは、こう言った。
「はあ?あんたみたいな最下層に言われたくないんだけど〜。ちょっと見た目がいいからって何にもできない海音寺グループのお荷物は黙ってろってねぇ。」
それから私は嫌がらせなんてもんじゃない、壮絶ないじめを受けた。細かい描写は避けておく。耐えて、耐えて私は中学生になった。勉強して、中学では誰も知らないランクに行った。家族は、褒めてくれなかった。だけど、そこでも結局何も変わらなかった。「最下層のお荷物」はどこでも結局いじめられた。遥花は助けようとしてくれた。全部断った。遥花が助けてくれたら、遥花はいじめられる。環境を恨んだ。生まれを恨んだ。家族を恨んだ。その時の私は、何も知らなかったから。性格がひねくれたのも、その時だったのかもしれない。でもそれが変わったのは、中2になったときだった。遥花が、こう言った。
「諦めるなら、最大限の努力をしてからだよ。」
そして、その言葉通り、すべてのことを死にそうになるまで頑張った。才能があった。なんでもどんどん上手くなった。家族は、さらに私への待遇をひどくした。そんなとき私は、全てを知らされた。
「御当主様がいらっしゃるぞ」
そう、父が言った。
「一家全員でろと言われたからにはあんたにも出てもらわなきゃいけないのよ。恥さらしだわ、せいぜいマシになるようにしなさい。」
母はそう言った。
「…はい」
そうして迎えたその日、種明かしがされた。
「今日ここに来たのは、華夜乃を返してもらうためだ。華夜乃は、我々の娘だ。」
一瞬、ざわめいた。私は、ただ聞いていただけだった。
(そうなのか)
それぐらいの気持ちだった。家が変わって、何が変わるのかなんて、わからなかった。世間の常識なんて知らなかったから。どうせ、私の成績がほしいだけだろう、そう思った。その後、本家に向かう車の途中で、すべてを明かされた。少し、優しさもあったことがわかった。虐待や、いじめについては知らないようだった。
(言わないほうがいい)
悟った。優しさがあるなら、悲しむだろうから。別に、誰がどう思おうと、気にしなかった。ただ、自分が直接的に関わって誰かが悲しむと、居心地が悪いだけ。それだけの理由。その日の風呂で直ぐにバレたけれど。そのまま卒業して、高校に入った。行かなかった。行きたくない。両親は大量の家庭教師をつけて仕事に出た。それから一年、才能は完全に開花した。ちなみに、学校は留年しそうになっていくことにした。人を信じるのはバカのすることだと思う。人に触れることはできない。まあ、そんな私のことも考慮して、(半分は権力で)先生方は今の形を許可してくれた。
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明後日は、次期当主となる兄に会う日だ。少し春の寒さを感じて部屋に戻り、ベッドに入る。今日は、夢見が悪そうだ。
*・*・*
「俺の親ってさ、俺のこと大事すぎて俺の妹を分家の試金石に使ったんだぜ。あの超かわいい華夜乃をだよ?ひどくない?まじでやっと久しぶりに会える〜!嬉しすぎるだろ」
…兄、澪夜はどうやらシスコンらしい。